本研究は当初、強磁性EuO層と超伝導LaO層のLaO/EuOヘテロ接合におけるスピン特性評価を目的としていた。しかし、昨年度に異動したことに伴い従来の製膜装置が継続使用できなくなったことにくわえ、コロナ禍の影響で長期間の実験中断を余儀なくされた。そこで研究計画自体を大幅に見直し、スピン特性評価以外の新たな方向性を見出すことを試みた。 最終年度となる今年度はまず前年度に引き続き、所属先所有の真空一貫電気化学-PLD複合装置にてEuO薄膜の成膜条件最適化を行なった。その結果、異動前と同程度の品質をもつエピタキシャル薄膜が作製できることを確認した。また、EuOと格子不整合度の大きな導電性のNb:SrTiO3(STO)基板上にもエピタキシャル成長できることを見出した。一方、EuO薄膜上にLaO層を積層してヘテロ構造の作製を試みたものの、成膜環境の違いゆえに達成できなかった。そこで、より簡便な銀を上部電極として蒸着することで以降の測定を行なった。 真空一貫電気化学-PLD複合装置ではPLDで製膜した薄膜を大気暴露することなくサイクリックボルタンメトリ-測定やインピーダンス測定などの電気化学評価が可能で、化学的に不安定なEuOなどの薄膜の半導体特性を解明できる。これまでEuOの半導体特性はほぼ未解明であり、Nb:STO基板上のEuO薄膜についても本装置を用いた評価を試みた。すると、Ag/EuOヘテロ薄膜で半導体に特徴的なMott-Schottokky plotが得られ、電気化学的なキャリア濃度の評価に初めて成功した。空乏層容量から求めたEuOの比誘電率は約3であることも初めて明らかになった。本結果は第69回応用物理学会春季学術講演会にて口頭発表するとともに、近日中に論文投稿する予定である。
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