研究実績の概要 |
反強磁性体は強磁性体と比べて優れた特性を持つことが明らかになり,その制御や電気的検出についての研究が盛んに行われ始めている。しかしながら強磁性体とは異なり,反強磁性ネールベクトルの電気的読み取りが難しい。そのためネールベクトルの電気的制御が実証された反強磁性体は限られており,系統的な実験は行われてきていない。本研究では反強磁性ネールベクトルの電気的制御の系統的な理解を目指し,逆ペロブスカイト窒化物反強磁性体Mn3AN薄膜を用い,①反強磁性体/強磁性体積層膜における交換結合磁界のスピントルクスイッチング,②ノンコリニア反強磁性体/重金属におけるスピン軌道トルクスイッチングを行った。反強磁性体Mn3ANはA原子によって反強磁性スピン構造や局所磁気モーメントの大きさが変化する。A = Ga, Ni, Ni0.35Cu0.65と強磁性体Co3FeNとのエピタキシャル成長した積層膜においてスピントルクスイッチングを行い,交換結合を得るための磁場中冷却方向と逆方向に外部磁場を印加しパルス電流を印加する事で交換結合磁界がすべての積層膜で反転する事,そして反強磁性層により交換結合磁界の反転が飽和する電流密度に優位な差があることを見いだした。また歪み印加をする事で異常ホール効果が発現するMn3GaN薄膜と重金属(Pt, Ta)との積層膜においてスピン軌道トルク測定を行い,歪み量から期待される異常ホール効果と同程度のホール抵抗の変化が観測された。またパルス幅依存性やパルス印加後のホール抵抗の減衰挙動より,パルス印加による熱の影響はあるものの,観測されたホール抵抗のスイッチングへの寄与は小さい事を見いだし,スピン軌道トルクである事の実証を行った。また,さらなる異常ホール効果シグナルの増大・低電流密度化を目指し,他のA原子や重金属を用いた展開を行った。
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