本研究では,キャリアのホッピング伝導に起因する高抵抗GaNの特異な圧電緩和現象の発現機構の解明を目的として,様々な振動モードの共振周波数と内部摩擦の温度依存性の系統的な計測に取り組んだ.まず,薄板形状で微小な高抵抗GaN試料(3mm×4mm×0.4mm)の共振周波数と内部摩擦を室温から300℃以下の温度域で正確に計測するために高温用超音波共鳴法計測システムを構築した.本研究では,従来の二点挟み込み型超音波センサとは異なり,三点支持型の高温用超音波センサを開発した.このセンサでは,針状のセンサの上に試験片を乗せるだけで計測が可能であるため,試験片に保持力が発生せず,共振周波数と内部摩擦を正確に計測することができる.本研究での計測結果から,ホッピング伝導に起因する高抵抗GaNの圧電緩和現象では,3つの内部摩擦ピークが発生することが明らかになった.これらの内部摩擦ピークの大きさとピーク温度は振動モード,つまり,圧電分極分布に強く依存していた.また,圧電緩和に起因する共振周波数の低下は一様に発生せず,各内部摩擦ピークに応じて段階的に低下することが確認できた.これらの結果より,高抵抗GaNのキャリアのホッピング伝導は異方性を示し,温度上昇に伴う圧電性の消失は段階的に発生することが示唆された.本研究で得られた知見は,GaN型トランジスタ内に生じるリーク電流経路の制御や,高温環境下でも性能が低下しない高耐熱GaN型弾性波フィルタの開発などにつながることが期待される.また,本研究で構築した高温用超音波共鳴法計測システムは汎用性が高く種々の微小試料に対して適用可能であるため,今後の固体力学研究の加速に貢献することができると考えられる.
|