研究課題/領域番号 |
19K15452
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
李 香福 日本女子大学, 理学部, 助教 (50836632)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 音響キャビテーション気泡 / ソノルミネセンス / 帯電 |
研究実績の概要 |
音響キャビテーション気泡は様々な分野への応用が期待され研究が行われている。音響キャビテーション気泡のより有効な適用には、気泡の動力学、圧壊時に生じる物理的・化学的作用など、気泡性質を解明する必要があるが、まだ十分に解明されていない。特に、音響キャビテーション気泡の電気的性質については報告例がない。 本研究の目的は、音響キャビテーション気泡の電気的性質について明確にすることである。具体的には、空間・時間的に安定な発光、ソノルミネセンス(SL)を示す単一気泡に白金電極を使用して電界を印可し、電界下での気泡位置を写真と動画撮影から求め、気泡の極性を検討する。気泡が極性を持っていない場合、電界印加による気泡の位置ずれは起こらないが、極性を持っている場合は、第1ビヤークネス力と静電気力の平衡点へ気泡の位置がずれるはずである。また、電界下での気泡ダイナミクス変化とSL強度変化や、発光時間、試料の溶存ガス種とpH、電界印加タイミングの依存性などを測定することで、帯電の要因を解明する。本研究の成果より音響キャビテーション気泡に関する電気的性質を考慮した新たな説明を行い、気泡ダイナミクスとSL機構の理解を深めることのみならず、音響キャビテーション気泡の応用場を広げることが可能だと考える。 令和元(2019)年度は、SL単一気泡(SBSL気泡)が電気的に帯電しており、かつプラスに帯電していることがわかった。帯電量はSL時間に依存する実験結果が得られ、気泡圧壊時の気泡内部で生成される化学反応物が気泡帯電へ影響を及ぶすることが示唆された。また、電気的帯電している気泡は電界印加によって気泡の膨張・収縮が変化し、SLの強度も変化することが確認できた。この結果は電界印加方法による気泡ダイナミクスと発光強度の制御可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間・時間的に安定な発光を示す単一気泡に電界をかけ、そのときの気泡位置ずれから気泡が電気的特性を持つことを確認した。先端が気泡を向くように白金製(Φ:0.5mm)電極を配置し、電極に正の直流電圧を印加した場合、気泡は電極から斥力を受ける方向に位置がずれた。反対に負の直流電圧を印加した場合は、気泡は電極から引力を受けたように気泡の位置がずれた。このことから音響キャビテーション気泡はプラスに帯電していることが示唆された。そして、気泡が発光を開始してから1秒、1分、5分、10分後と異なるタイミングに電界を印加したところ、発光時間が長いほど気泡の位置ずれは大きかった。気泡位置ずれの発光時間依存性より、気泡内部で生成された化学反応物が気泡帯電へ影響を及ぶすることが示唆された。気泡圧壊時に気泡内部の高温・高圧下で過酸化水素、亜硝酸などの化学反応物が発生し、気液界面を通して液体側に拡散する。発光時間によって化学反応物の発生量にも差が生じると予想される。また、電気的特性を持つ気泡は印加した電界から影響を受ける可能性があるため電界印加の気泡ダイナミクスへの影響をレーザー散乱法によって調べた。その結果、正の直流電圧を印加した場合、気泡の最大径が減少し、発光パルス強度も減少した。反対に、負の直流電圧を印加した場合は気泡の最大径は増加し、発光パルスの強度は増加した。この結果は電界印加方法による気泡ダイナミクスと発光強度の制御可能性を示唆した。音響キャビテーション気泡の化学的・物理的作用以外に、発光そのものの応用も期待できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、気泡の帯電要因を明確にするため、試料の溶存ガス種とpH、また電界印加タイミングへの依存性などを測定する。具体的には、溶存空気をアルゴンなど希ガスに置換し、過酸化水素、亜硝酸などの化学反応物の発生を抑制する。発光時間と帯電量に相関があることから、溶存ガス種依存性を調べることで、気泡内部で生成された化学反応物の気泡帯電へ影響を明確にすることができると考える。また、微量の塩酸(HCl)や水酸化ナトリウム(NaOH)の添加より溶液のpHを調整する。水中を浮遊するマイクロバブルは、負の電荷を帯びているとされており、液体中のH+イオンとOH-イオンが決定的な要因であるとされている。そこで、試料のイオン濃度が音響キャビテーション気泡の極性へ影響するかを検討する。さらに、電界印加タイミング依存性を調べる。音響キャビテーション気泡は周期的に膨張・圧縮を繰り返す。超音波と同期した交流電圧を位相を変えながら印加した場合の気泡の位置ずれや気泡ダイナミックスを測定し、気泡の1サイクル中の極性、帯電量変化を調べる。測定結果より、気泡の膨張・収縮のどの過程が気泡の極性にもっとも影響するのかを調べる。
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