本研究は新規ワイドギャップ半導体として注目される酸化ガリウムを同じIII-VI族半導体に属する硫化ガリウムとの混晶化により、酸化ガリウムの価電子帯エネルギー位置を浅いエネルギー位置へと制御し、浅いアクセプタ準位の形成を経てP型導電制御を実現する事を目的とする。 結晶成長方法として酸化物および硫化物の結晶成長が可能なミストCVD法を用いて、酸化ガリウムと硫化ガリウムの混晶である酸化硫化ガリウムの結晶成長技術の確立をめざし、特に酸化硫化ガリウムの結晶成長における最重要要素と考えられる、酸素、硫黄、ガリウムの各元素の供給量および供給比率の最適化のため、酸素源および硫黄源に水溶媒およびチオ尿素を選び、これらの供給量と比率に対する酸化硫化ガリウムの混晶比と結晶性への影響について調べた。 一昨年度は、前年度までで硫黄混晶比が最大で10%程度までしか制御できなかった事から、硫黄の取り込み効率を改善するため、強い酸素供給源である水溶媒に代わって、酸素供給の弱い溶媒であるメタノール溶媒を用いた酸化硫化ガリウム混晶の作製に取り組み、最大で70%まで硫黄混晶比を向上させる事に成功した。一方で、得られた薄膜は非晶質であり、酸化硫化ガリウムの単結晶化には成功しなかった。 そのため、昨年度は、溶媒中でのGa原料やS原料の安定性について調べるため、複数のGa原料とS原料の組み合わせを試み、成長した薄膜の硫黄混晶比や結晶性について調べた。その結果、低安定性のS原料では溶液中でGa原料と反応してGa2S3微結晶を形成して薄膜に取り込まれている事、また安定性の高い原料の組み合わせでは、溶液中での反応は少なく、基板上で各原料が熱分解して薄膜に取り込まれる、通常のCVD反応が起こっていることが分かった。この結果から、今後は高安定性のS原料を用いて、酸化硫化ガリウム薄膜の成長に取り組む予定である。
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