研究課題/領域番号 |
19K15457
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
富樫 理恵 上智大学, 理工学部, 助教 (50444112)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 酸化ガリウム / 熱力学解析 / 気相成長 |
研究実績の概要 |
Ga2O3成長を実施するに先立ち、完全非水素系(窒素ガス中)、水素系(水素ガス中)におけるβ-Ga2O3(001), (010), (-201)基板の熱的安定性、水素と基板表面間の反応、及び面方位依存性について、高温常圧加熱炉装置を用いた実験及び熱力学解析により詳細に検討した。具体的には、β-Ga2O3は窒素中1200℃以上で熱分解し、面方位による分解速度の明瞭な差はみられないのに対し、水素中では650℃の低温よりGaドロップレットを形成しエッチングが進行し、分解速度の大きさは、(001) < (-201) < (010) の順であること等を明らかにし、研究目的達成に向け重要な知見を得ることができた。研究成果については国内・国際学会発表を行った。さらに、他のIII族酸化物である酸化インジウム結晶の熱的・化学的安定性の検討、デバイス応用を目指した、毒性のないガスと簡便な装置を用いた低損傷のエッチング法として水素雰囲気異方性熱エッチング(HEATE)法による基本的なエッチング特性の評価へ発展させることができた。これより、エッチングはナノオーダーで制御可能であること、熱力学解析によりHEATE法によるIn2O3成長層のエッチング反応は説明可能であることを明かにした。 一方、Ga2OとH2OもしくはO2ガスを原料として用いたGa2O3成長の熱力学解析を実施した。原料部でGa金属とH2Oの反応によりGa2Oガスを生成し、生成したGa2Oガスと別途導入するH2Oガスを成長部で反応させることで、大気圧下で1000℃以上の成長温度にて、 Ga2O3高速成長が期待されることを明かにした。さらに、キャリアガス中の水素は、原料部にて発生するH2O由来の水素のみの最小量であることが望ましいこと、VI/III比、およびGa2O供給分圧を増加することで、成長速度が増加することを明かにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、Ga2Oを選択的に生成する新原料分子種生成制御法を用いたGa2O3成長実験に先立ち、完全非水素系(窒素ガス中)、水素系(水素ガス中)における面方位に依存したβ-Ga2O3(001), (010), (-201)基板の熱的・化学的安定性の詳細な検討、デバイス応用を目指した水素雰囲気異方性熱エッチング(HEATE)法による他のIII族酸化物である酸化インジウム成長層のエッチング特性の検討を行った。得られた成果は、研究目的達成に向けた重要な知見となったといえる。また、研究成果については国内・国際学会発表を行い広く公開することができた。 さらに、高純度金属GaとH2Oガスの反応、及びGa2O3原料とH2ガスの反応でGa2Oを選択的に生成する新原料分子種生成制御法へ展開した、世界で唯一のGa2O-H2O系、Ga2O-O2系Ga2O3成長に関する熱力学解析を実施した。特に、Ga2O-H2O系Ga2O3成長の熱力学解析により、原料部でGa金属とH2Oの反応によりGa2Oガスを選択的かつ安定に生成可能であり、生成したGa2Oガスと別途導入するH2Oガスを成長部で反応させることで、大気圧下で1000℃以上の成長温度にて、 Ga2O3高速成長が期待されることを明かにした。得られた結果に基づき成長装置を設計・構築しすることで、大気圧下で高温・高速成長可能であり、高純度厚膜結晶が得られると考えられる。さらに、成長層の構造、電気・光学物性等の評価を行い、デバイス応用につなげることが可能である。以上より、研究目的達成に向け、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)これまで得られた理論解析結果に基づき、原料分子種生成制御機構の解明、及びGa2O-H2O系Ga2O3成長装置の設計・構築を行う。構築予定のGa2O3の気相成長反応装置の石英管は2室からなる石英製の一体型反応管で、それぞれのゾーンを電気炉により別々の温度に制御する。原料部に高純度Ga金属を設置し、キャリアガスである窒素等の不活性ガスと共にH2Oガスを供給し、Ga2O分子を選択的に生成する。初期基板を設置した成長部にて、Ga2OとH2Oの反応によりGa2O3を初期基板上に成長させる。 (2)構築した装置を用い、温度、原料供給分圧比等を精密に制御し、様々な条件下におけるGa2O-H2O系Ga2O3成長を実施する。 (3)Ga2OガスとH2Oガス間の反応による成長がGa2O3成長、及び成長層の構造、光学・電気物性に与える影響の検討を行う。具体的には、SEM, AFM, X線回折測定による結晶性、表面モフォロジー等の構造的評価を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、Ga2O3成長実験に先立ち、完全非水素系(窒素ガス中)、水素系(水素ガス中)における面方位に依存したβ-Ga2O3(001), (010), (-201)基板の熱的・化学的安定性の検討、デバイス応用を目指した水素雰囲気異方性熱エッチング法によるIn2O3成長層のエッチング特性の検討、及びGa2O-H2O系、Ga2O-O2系Ga2O3成長に関する熱力学解析を用いた詳細な理論的検討を精力的に実施したため、予定していた新規成長系(Ga2O-H2O系、Ga2O-O2系Ga2O3成長装置の)の構築を次年度以降に実施することとした。そのため、予定より今年度の使用金額が少額となり、次年度使用額が生じた。 使用計画 次年度以降は、新規成長系を構築するため、H2Oバブラー、ガス供給制御系の構築に使用するための配管、マスフロコントローラ等が必要となる。また、原料分子種生成制御機構を有する成長装置を稼働させるため、研究期間を通して、消耗品として石英反応管類、反応管コネクター類、高純度ガリウム金属、原料輸送ガス(窒素,水素)が必要である。その他、全期間を通して、調査・国内外の学会参加、および発表のための旅費、成果の論文投稿関連費用が必要となる。
|