研究実績の概要 |
高強度超短パルスレーザー技術の発展によって可能となった「時間分解高次高調波分光法」は、高い時間分解能と空間分解能を併せ持つ強力な分光手法である。本研究の目的は、時間分解高次高調波分光法の更なる高度化を図り、超高速光化学反応を解明するための汎用な手法として成熟させることである。 2021年度は、①円偏光高次高調波の干渉現象を利用した、その位相特性の解明、②集光素子の分散測定手法の開発、の2テーマについて研究を進めた。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は下記の通りであった: ・時間分解高次高調波分光法により、環状有機分子1,3-cyclohexadieneの光開環ダイナミクスを観測し、その過程を明らかにした。分子の電子励起状態の緩和過程を高次高調波分光法で観測したのは、本研究が初めてである。本研究を通じて、時間分解高次高調波分光法の有用性を示すことができた。 ・2種類の異なる希ガスを混合した媒質を用いた円偏光高次高調波発生を通じて、円偏光高次高調波の位相特性を測定した。また、理論モデルに基づいた数値計算結果との比較を行い、理論モデルが妥当であることを確かめた。円偏光高次高調波は、スピン・磁性の研究において今後ますます重要になると考えられる。本研究において、円偏光高次高調波の基礎特性を明らかにできたことは意義深い。 ・対物レンズの分散特性を測定する手法を開発した。対物レンズは、時空間分解分光法において頻繁に用いられるが、対物レンズを透過すると、フェムト秒パルス光の時間幅が長くなってしまう欠点がある。本手法によって対物レンズの分散特性を測定できるようになったことで、対物レンズの分散を正確に補償することが可能となり、高い時間分解能の達成につながる。上記2点の研究成果と毛色は異なるが、時空間分解分光法の高度化という点で、本研究の目的に沿う成果が得られた。
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