周波数が数十テラヘルツの高周波テラヘルツ波領域では、高強度光源を用いた高速な物性制御への応用が注目を集めており、位相安定な高強度光源が求められている。本研究では、近年利用可能となってきたレーザーダイオード直接励起の高安定なYbレーザーをベースとして、高い安定性と高繰返し性を活用しつつバンド幅の狭さを克服した、新たな高強度高周波テラヘルツ光源の実現を目指して研究を行った。 前年度までに、レーザー出力の255 fsのパルス幅を11fsまで圧縮し、非線形光学結晶GaSeを用いたパルス内差周波発生による高周波テラヘルツパルス発生と、光パラメトリック増幅の実証を行った。 当該年度には、GaSe結晶を用いた光パラメトリック増幅を2段階に拡張し、さらなる増幅を行った。2段階の増幅においても入射角による位相整合条件の制御で17~45THzの範囲で周波数を選択して増幅することができた。増幅後のパルスの電場尖頭値は2MV/cmを超え、高強度パルスを用いた物性制御などへの応用に利用できる光源を実現できた。 また、安定性向上のために風よけの設置など装置の改良を行った。これにより2段階の増幅後でも、メカニカルなフィードバック機構を用いることなく、6時間にわたって16mradの位相揺らぎに抑えられた。従来手法の2波長のパルス間差周波発生の手法においては光路長の揺らぎが問題となり、フィードバックをかけても典型的には100mrad程度の揺らぎが存在していた。それに対し、本手法ではパルス内差周波発生による位相安定なシード光を光パラメトリック過程でシグナル港として増幅しているために高い安定性が得られたと考えられる。 当該年度の成果により、本研究で目標とした高強度高安定な高周波テラヘルツ光源の実現が達成された。
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