研究課題/領域番号 |
19K15468
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉峯 功 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 特別研究員 (70808964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 非線形光学効果 / 光整流 / DAST / フェムト秒光パルス / 高強度テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
有機非線形結晶DASTを用いた高強度かつ周波数・偏光制御可能なテラヘルツ波発生に向けて、計算と実験の両面から準備を進めるとともに、DAST結晶における非線形光学効果の性質を明らかにした。 (a)有機非線形結晶DASTにおける非線形光学効果の解析と計算モデルの構築:2枚の有機非線形結晶を組み合わせて非線形光学効果によるテラヘルツ波発生を行う場合において、入射光と発生テラヘルツ電場の関係をシミュレートするため、差周波発生と結晶内での吸収・分散を仮定した計算を行っていたが、これらのみでは1枚のDAST結晶に光パルスを照射した場合の発生テラヘルツ波強度のポンプ光強度依存性を説明できなかった。そこで、先行研究をもとに非線形吸収やポンプ光のダウンコンバージョン、光励起されたキャリアによるテラヘルツ波吸収といった非線形光学効果を仮定した計算を行うモデルとプログラムを作成し、計算結果と実験的に得られたテラヘルツ波発生効率のポンプ光強度依存性とを比較することにより非線形光学効果のパラメータ推定を行った。結果、実験結果をよく説明することができた。さらにその結果から、先行研究では明らかでなかったそれぞれの非線形光学効果の寄与の程度について解析を行ったところ、DAST結晶中における非線形吸収がテラヘルツ光発生効率の低下において最も支配的であり、次いで光キャリアによる吸収の寄与が大きいことが明らかになった。これらの結果について論文化を行っているほか、国際学会等での成果公表を行った。 (b)光パルス変調光学系の構築:非線形光学効果により高強度かつ任意の偏光・周波数を有するテラヘルツ波を発生させるため、励起光パルスの波形を制御するための光学系の設計・構築を行った。具体的には、光パルスの強度波形にテラヘルツオーダーの周期的な変調をかけ、その変調周波数の制御が可能な系を構築し制御性の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、非線形光学効果によるテラヘルツ波発生においては光整流(差周波発生)と吸収や分散が主な寄与と考えていたが、実際にはより多くの線形および非線形の光学効果が無視できない寄与を持っていたため、テラヘルツ波発生の状況を説明するための非線形光学効果モデルの構築と計算に当初の想定より多くの時間を要した。しかしながら、この計算により有機非線形光学結晶(DAST)内で発生する非線形光学効果とその寄与について定量的な知見を得られたのは、当初の期待にない成果であった。またこのことにより、目的である2枚の有機非線形光学結晶を組み合わせてのテラヘルツ発生についても、入射光波形と発生テラヘルツ波波形の関係についてより実験的な状況に近いシミュレーションが可能になると期待される。 実験においては、周波数制御されたテラヘルツ波を発生させるために必要な強度変調された光パルスを得ることについておおむね完了した。一方、変調光パルスによって発生したテラヘルツ波については、テラヘルツオーダーの周期変調を加えるため時間幅をピコ秒オーダーに引き伸ばした光パルスで励起することから強度がフェムト秒パルス励起と比べ低くなったテラヘルツ波の周波数や時間波形の測定が課題となっている。現時点では測定には至っていないが、計算結果を用いたテラヘルツ波強度推定や測定S/Nの改善などにより変調テラヘルツ波の測定・発生確認が可能になると考えている。 以上を踏まえ、総合的にはこのような進捗評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、計算によるシミュレーションと実験の双方から、非線形光学結晶を用いた高強度かつ周波数・偏光制御可能なテラヘルツ波発生の実現に向け研究を進め、同時に成果公表を行う。 計算においては、これまでに構築したモデルを用いて2結晶を組み合わせた系による周波数・偏光の制御性について確認を行い、既に論文化を進めているDASTの非線形光学効果の寄与の分析とともに成果公表を行う。さらに、得られている非線形光学効果のモデルから結晶中の不純物がテラヘルツ発生効率に大きな影響を与えることが予想されるため、非線形光学結晶の結晶品質などのテラヘルツ波発生への影響の調査・検討も行う。 実験においては、変調された光パルスにより発生したテラヘルツ波の検出とその周波数や時間波形の測定を行うべく、測定系の改良や測定手法の検討を通して高感度化・高S/N化を行う。変調パルスにより発生したテラヘルツ波の検出が可能となれば、計算による予測に合わせて変調光パルスを発生させ、2結晶を組み合わせた系に照射する実験的な偏光制御されたテラヘルツ波発生へと進む。
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次年度使用額が生じた理由 |
非線形光学結晶内における非線形光学効果の寄与などの計算について論文化が次年度にずれ込んだことが、次年度使用額発生の主な理由である。したがって、この次年度使用額は基本的にこれらの論文の投稿費用及び英文校閲等論文投稿に関連した費用に充てる予定である。
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