様々な中性子スペクトル場を生み出すことによる中性子核反応の制御を究極の目標に据え、本研究では加速器駆動システム(ADS)における中速中性子に対する核変換実現性を明らかにすることを目的として、以下の項目を実施した。 1.原子炉実験測定と評価(2019-2021年度):京都大学臨界集合体実験装置KUCA A架台に構築した炉心とFFAG加速器を組み合わせたADS実験体系において原子炉実験を実施し、中速中性子に対する放射化反応率を測定した。その結果、選定した放射化箔によって中速中性子に対する放射化反応を測定可能であることが確認できた。また、未臨界度が変化する条件においても、数値解析結果が放射化反応率の実験結果を一貫した計算精度によって再現可能であることが示された。 2.ADS仮想実験体系における数値解析(2021-2022年度):核破砕中性子源と炉心の位置関係、減速材種類および未臨界度を変化させた条件について、ADS仮想実験体系を構築し数値解析を実施した。その結果、放射化反応率は未臨界度の変化に対して誤差の範囲内で一定の値を示し、放射化反応率に対する未臨界度の影響は小さいことが分かった。一方、核破砕中性子による放射化反応率への寄与については、炉心条件の影響が有意であり、中性子源位置が近い、減速材の減速能が小さい、未臨界度が深い条件において核破砕中性子による寄与が大きくなることが分かった。 以上から、様々な炉心条件を変更したADS実験体系において、放射化反応率を元に高エネルギー核破砕中性子の中速中性子に対する影響を検討した結果、核破砕中性子による中速エネルギー中性子への影響は極めて小さく、ADSにおいて中速中性子に特徴を持つ中性子スペクトルを得ることが難しいことが分かった。このことから、ADSにおける中速中性子を活用した核変換については、臨界炉と同様の技術の活用が見込まれる。
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