800℃以上の高温に耐えうる炉心材料が要求される航空機材料や次世代原子炉、核融合炉では、γ'(Ni3Al)相に起因する高い高温強度を持つ、Ni基合金の利用が期待されている。これらの材料には、高温強度だけでなく耐照射性も要求されるため、両者を両立させた合金開発が必要不可欠である。我々は従来のNi基合金に酸化物粒子を分散させることで耐照射性を向上した、新Ni基超合金MS4を開発したが、先行研究では本材料は800℃・100dpaという高温重照射環境に耐えるが、次世代原子炉で必要とされる1000℃・100dpa には耐えられない結果であった。合金の性能は酸化物粒子とγ'相の2種類の析出物の相互作用が鍵であるため、更なる超過酷環境での照射を行い、両者の相互作用を解明するとともに、革新的新規材料の開発を目指す。 本年度は、試料の手配と800℃・100dpaの照射実験の再現実験を行った。これは先行研究で使用した加速器装置と照射イオンが異なるためである。 高崎量子応用研究所のTIARA加速器でのNiイオンの800℃・100dpa照射材に対して透過電子顕微鏡観察を行った結果、先行研究における京都大学DuETでのFeイオンの照射結果と同様に、γ'相は800℃でも安定に存在した。この相安定性の要因として、γ'相構成元素であるAlやTaがエネルギーの高い結晶粒界等に偏析する逆カーケンドール効果が挙げれられる。研究代表者は、照射中に酸化物粒子界面でも同様の偏析が起こり大規模な粒界偏析が抑制され、γ'相の形状安定性が維持されたと仮定した。試料観察の結果、酸化物粒子界面においてAlやTa等のγ'相構成元素の濃化は見られず、γ'相の高温での相安定性の要因は酸化物粒子の逆カーケンドール効果に寄らないことが判明した。今後、より高温での照射実験を行いγ'相の安定性と酸化物粒子の影響に関して詳細に検討する必要がある。
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