本研究では,気候変動が進行する都市における地中熱利用システムの長期予測評価法の確立を目的とし,寒冷地の代表として選定した札幌市を対象に,都市スケールでの地下熱・地下水連成輸送シミュレーションを行った。 解析モデルは,札幌扇状地を囲む10kmスケ―ルとし,地下水を供給する境界条件として,地表面に蒸発散,表面流出を簡易水収支を考慮した涵養量を与えた。また,河川から地下水への水と熱の供給条件も与えている。地下水面に与える熱輸送境界として,上記気象データと一次元熱収支モデルを用い,市内のエリア毎での異なる被覆条件に対する熱収支フラックスを推定した。この熱フラックスは,被覆が裸地から舗装面に被覆されるエリアで,特に上昇が認められる可能性が明らかとなった。 解析期間は,1921~2020年の100年間とし,都市の創生から発達,成熟に至る一連の地下水および熱環境を再現した。その際,記録以前の河川水位や水温は,記録水位と気象データの関係から非線形相関モデルを別途作成し予測することで与えた。 本研究の特徴として,自然地下水流れに加え,市街地における人口的な地下水流れを再現するため,揚水井戸をメッシュ・深度毎に換算し,域外への流出量として与えた。ここでも記録以前の揚水条件は,経済活動と人口との相関性からのトレンドとして与えた。計算の結果,河川からの涵養区間に沿って熱プルームが市街地に向かう傾向が都市化で井戸揚水が増加することで拡大することが明らかとなった。 本研究の目標とした地中熱利用システムの性能評価の汎用化手法として,札幌市の500mメッシュ,計400地点でのシステムシミュレーションで得た期間成績係数を再現する設備性能,気象,地質・地下水を説明変数としたガウス過程回帰分布モデルを作成した。本手法は地下水流れのある堆積平野・盆地で発展する,我が国および世界の多くの都市に適用可能な手法となりうる。
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