研究課題/領域番号 |
19K15493
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
才ノ木 敦士 熊本大学, 国際先端科学技術研究機構, IROAST准教授 (70802049)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 岩盤不連続面 / 微小地震 / 地震エネルギー / すべり軟化距離 |
研究実績の概要 |
本研究では、まず最初に、岩盤不連続面に圧縮応力が作用したときの不連続面表面における微小凹凸の時間依存性の変形・応力状態を解明する。そのために、2020年度はマイクロX線CT内部で不連続面を有する岩石供試体に圧縮応力を作用させることができる装置の開発を行った。マイクロX線CT内部は、実験領域が限られるために、小型の一軸試験装置を設計・作成した。それと同時に、砂岩及びセメントのブロックを割裂させ、不連続面を有する円柱供試体を作成した。それらを先に述べた一軸試験装置を用いてX線CT内部で圧縮させ、圧縮応力が作用した不連続面近傍の断面画像を撮影した。そして、撮影された断面画像から三次元画像を再構成し、デジタル画像相関法(DIC)を適用する段階まで実験を進めた。 上記で述べた実験的検討とは別に、本研究の最終段階で実施する地熱貯留層内部における微小地震シミュレーションのための第一ステージとして、断層への流体注入によって生じる微小地震のエネルギーと断層の力学的物性値の関係を数値解析を用いて検討した。具体的には、有限差分法に基づく数値解析ソフト(FLAC3D)を用いて断層を有する直方体形状の数値解析モデルを作成し、地下1000メートルに相当する初期応力を与え、地熱貯留層を構成する深成岩の物性値を与えた。この数値解析モデルを用いて断層への流体注入を実施し、動的な誘発地震シミュレーションを実施した。数値解析で、断層のすべり軟化距離が地震エネルギーに与える影響を詳細に調べ、誘発地震の規模のみでなく、解放される地震エネルギーにも着目した断層の物性値推定手法を開発した。さらに、地震エネルギーを考慮したすべり軟化距離のスケール依存性を表す経験式を新たに考案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
岩盤不連続面の時間依存性挙動の解明に関してはやや遅れがある。マイクロX線CT内部は実験領域が限られるため、小型の一軸圧縮試験装置を独自に開発する必要があったが、不連続面を有する円柱供試体に対して安定して一軸圧縮応力を加える装置の開発に予想以上の時間を要した。また、当初の予定では供試体内部に存在する微小な空隙の変形をX線CTで撮影する予定であったが、各々の空隙の変形を調べるよりも、デジタル画像相関法(DIC)という方法を用いて、断面画像全体のひずみ分布を求めることとした。DICを適用することによって、局所的な変形ではなく、岩盤不連続面近傍のひずみ分布を計算することができるので、周囲の応力分布がより詳細に明らかとなり、今後実施する不連続面圧縮試験の再現解析との比較が容易となる。ただし、X線CT画像にDICを適用するためには、供試体内部に密度が異なった粒子が存在している必要がある。セメントを用いて供試体を作成する場合、空隙を除いて密度がほぼ均質となるため、密度分布の差異を作り出すためにマーカー(密度の高い微粒子)を混ぜてセメント供試体を作成する必要があった。マーカーの選定に時間を要したことも、この実験の遅れの一因となっている。 微小地震の数値シミュレーション手法開発に関しては、順調に進んでいる。当初予定にはなかった断層の力学的パラメーターをより正確に推定する手法を開発できたことによって、今後実施する地熱貯留層内部における微小地震シミュレーションをより高精度に実施することができると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
実験に関しては、まず最初に撮影したCT画像にDICを適用することによって、岩盤不連続面表面凹凸近傍の微小領域におけるひずみ分布の定量評価を行う。そして数値解析結果と比較することによって、微小凹凸近傍における応力状態・応力集中を明らかにする。その後は、予定通り、岩盤不連続面のクリープせん断試験を実施し、AE測定を実施し、不連続面表面凹凸内部における時間依存性のダメージ進行を調査し、X線CT画像解析から得られた応力分布・応力集中領域との比較・検討を行う。 数値解析に関しては、地熱貯留層内部の初期応力分布を高精度に表現できることができる数値解析手法の開発を試みる。これは、当初の予定には含まれていなかったが、複雑なき裂ネットワークによって構成される地熱貯留層などの岩盤内部では応力状態は均質ではないために、その初期応力を効率よく計算できる手法を開発することが必要という考えに至った。数百万本のき裂を有する地熱貯留層に対して不連続体解析を実施するのは非現実的であるため、連続体解析を用いてき裂を有する岩盤の初期応力状態を解析する手法開発を試みる。
|