本年度は、一光子吸収に対応するAr原子からのレーザーアシステッド電子衝撃イオン化の強度を数値シミュレーションによる計算結果と比較することによって、Arの最外殻電子である3p軌道が強い光によって歪められる光ドレスト効果による、レーザーアシステッド電子衝撃イオン化の微分散乱断面積の増強効果を明らかにした。 実験的に得られたレーザーアシステッド電子衝撃イオン化の強度を評価するために、電子、光、Ar原子間の相互作用を全て無視したモデルであるCavaliereらの理論式を基に、製作した装置および実験条件におけるレーザーアシステッド電子衝撃イオン化の強度を計算した。計算は、レーザー場が存在しない光電場フリーにおける電子衝撃イオン化の強度を基に行うことによって、検出器の検出効率の不均一性まで考慮した。その結果、観測された強度は計算された強度の2倍程度となっていることが明らかとなった。この強度の増加は、計算時に無視した相互作用の中でもっとも寄与が大きいと推定される光・Ar原子間の相互作用に依るものと考えられる。この相互作用は、強い光によってAr原子の3p軌道がより高い電子励起状態と混合することによるものであり、定性的には電子軌道が歪められる光ドレスト効果として理解することができる。 装置開発の観点では、コインシデンス条件の有無で高速電子・低速電子のカウント数がどれだけ変化するかを利用することによって、高速電子および低速電子分析器の捕集効率を推定した。その結果、高速電子の捕集効率は90%、低速電子の捕集効率は10%と見積もられた。これらの捕集効率は、分析器の幾何学的配置から見積もられた値と良い一致を示しており、設計通りの性能が達成できていることが確認された。
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