研究実績の概要 |
2020年度は前年度に報告した、ヒドリドドープしたホスフィン保護金超原子を利用するチオラート保護配位子への表面変換反応をさらに追求した。この反応は電子的に活性化された金超原子が金チオラート錯体を求核的に攻撃することで進行する。生成物であるチオラート保護金クラスターは表面に同様の錯体構造を持っているため、これを利用することで超原子が二量化した構造を選択的に合成できないかという発想に基づき、実験を行った。 結果として想定した通りの超原子融合反応を見出し、MM’Au36(SR)24 (M, M’ = PdまたはPt; SR = チオラート)の一般式を持つクラスターを選択的に合成でき、これらのX線結晶構造を世界で初めて決定した。それらは中心に双二十面体MM’Au21コアを持つ構造であり、M(M’)原子がその中心にドープされていることを見出した。純金クラスターとその幾何構造を比べた結果、MM’Au36クラスターではMM’Au21コアが若干歪んでいることがわかった。密度汎関数理論計算により、この歪みは双二十面体構造の各二十面体ユニットが曲がった形で相互作用していることを結論した。 上述のMM’Au21コアは二つの金超原子が結合してできた超原子分子とみなすことができる。この二超原子分子は通常の二原子分子とは異なり、内部自由度を持つため、曲がった形の相互作用が許される。本研究はこのような超原子分子の結合論を理解する上で重要な結果であり、Angew. Chem., Int. Ed.誌に掲載された。 本研究により、ヒドリドドープされた金超原子が多彩な反応性を持つことを明らかにし、それを利用してこれまでに合成が困難であったクラスターを再現性よく合成する方法を確立できた。これらの結果は金クラスターの性質の理解を加速し、ナノスケールの機能性物質としての応用への重要な足がかりとなりうると考えられる。
|