研究課題/領域番号 |
19K15500
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 俊明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (40771598)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 強光子場科学 / フーリエ変換分光 / クラスター / フェムト秒化学 |
研究実績の概要 |
既存の飛行時間型質量分析(TOF-MS)チャンバーを改良し、最大繰り返し周波数5kHzのピエゾバルブをTOF-MSに導入した。背圧2気圧のアルゴンガスをサンプルとして導入し、ピエゾバルブを動作させた。ピエゾバルブから出射された超音速ガスジェットはスキマーによって切り出され、TOF-MSの相互作用領域に導入される。生成した超音速ガスジェットビームに高強度近赤外数サイクルレーザーパルスを集光することによって、超音速ガスジェット中のアルゴン原子、アルゴンクラスターをイオン化し、TOFスペクトルを計測した。ピエゾバルブに印加する電圧を適切に調整することによって、最大5量体までのアルゴンクラスターの生成を、TOFスペクトルから確認することが出来た。 また、Ar原子とKr原子に"高強度近赤外数サイクルレーザーパルスを用いたフーリエ変換分光法"を適応した。Ar^(2+)とKr^(2+)のイオン収量のフーリエ変換によって得られたスペクトルには、Ar^(+)とKr^(+)のスピン軌道分裂に相当するピークが非常に強く表れた。Ar^(2+)とKr^(2+)の収量を、遅延時間を500psまで掃引して計測し、フーリエ変換することによって、スピン軌道分裂エネルギーをそれぞれ1.2×10^(-4) cm^(-1)、5×10^(-4) cm^(-1)の精度で決定できた。得られたAr^(+)とKr^(+)のスピン軌道分裂の大きさの精度は、先行研究よりもそれぞれ6倍、48倍高いものであった。ここで得られたスピン軌道分裂の大きさは、希ガスクラスターの回転・振動数を精密に計測する上で、周波数の校正に用いることができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度の予定通り、高繰り返しピエゾバルブをTOF-MSに導入し、超音速ガスジェットを生成するとともに、TOFを用いて希ガスクラスターの生成を確認できた。なお、もともと作動排気のできるTOF-MSにピエゾバルブを導入したため、新たに作動排気機構を製作する必要が無かった。 さらに、希ガスイオンのスピン軌道相互作用分裂を、本計測手法によって精密に計測することが出来た。そのため、希ガスクラスターの計測の際に、サンプルとして、希ガスと周波数校正用ガスの混合ガスを用いる必要がなくなり、希ガスクラスターのフーリエ変換スペクトルに、他種の錯体の影響が現れることを憂慮する必要が無くなった。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は高強度近赤外数サイクルレーザーパルスを用いた希ガスクラスター分子のポンププローブ計測を行う。まず、ポンププローブ計測の遅延時間を1ps程度掃引することによって、クラスター分子と、クラスターイオンの収量を観測し、振動・回転スペクトルが得られるかどうか、確認する。得られた振動・回転の位相から、強レーザーパルスによる振動回転の励起過程の情報を得る。さらに、この計測を通じて、フーリエ変換スペクトルを得るために最適な実験条件(レーザー強度、サンプル圧力等)を決定し、高分解能フーリエ分光(遅延時間: ~1 ns)を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、作動排気機構の無いチャンバーを改良し、研究に用いることを想定していた。実際は、既に作動排気機構の備わったチャンバーを用いることとなったため、チャンバーの改良費(項目:その他)が低くなった。 研究に用いるチャンバーを変更したために、レーザー光をチャンバーに導入するための光学系を新たに準備する必要がある。そのため、次年度使用額は、物品費を当初の予定よりも増額し、994,010円とする。また、旅費を当初の予定通り、300,000円とする。
|