研究課題/領域番号 |
19K15506
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
長嶋 宏樹 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (60814027)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 一重項分裂 |
研究実績の概要 |
一重項分裂(singlet fission,SF)は一つの励起一重項状態から2つの三重項状態を形成する反応で、太陽電池の効率を引き上げる方法として注目されている。SFはスピン許容遷移であり、まず一重項状態の三重項励起子ペア1(TT)が形成される . 次にそれが五重項状態5(TT)へと変換される. これは実際に時間分解電子スピン共鳴 (TREPR)法で近年観測された(Weiss et al., Nature Physics 2017, Tayebjee et al., Nature Physics 2017)。多重励起子が五重項状態を形成することで、S0 + S0状態への失活や、逆反応である三重項三重項消滅(TTA)が一重項状態1(TT)の場合と比べてより抑制できると考えられる。そのため, 一重項分裂反応の応用のために, このスピン変換機構を理解することが重要である。 申請者はこれまでに, 時間分解電子スピン共鳴計測により、五重項状態の形成を確認した。凝集体や結晶においては, 三重項励起子対が分子のオーダーした領域において ピコ秒-ナノ秒のスケールで移動することにより、全体として一重項状態にあった励起子対から五重項状態励起子対へと変換するS-Qミキシング(一重項-五重項混 合)反応が起こっていると提案している。 さらに新規の金ナノ粒子表面にSF材料を結合させたような系においても重要であることを時間分解電子スピン計測およびシミュレーションから. またSF材料の二量体における五重項状態の観測から、励起子が動かない系で五重項形成が一種の緩和効果によるとするモデルを提案した. 以上の成果をThe Journal of Physical Chemistry Cなどにおいて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに時間分解EPR法により, 計画していた一重項分裂を起こす色素を連結した一重項分裂材料の時間分解電子スピン共鳴計測を行い、五重項励起子の電子スピン共鳴信号を得ることに成功した. 関連して, いくつかの新奇一重項分裂材料候補の電子スピン共鳴計測を行い,それらは五重項の信号を示さないこともわかった. 金ナノ粒子に結合した多数のテトラセン誘導体において一重項分裂によって五重項状態の信号を観測できた.これまでの研究で, 凝集体や結晶においては, 三重項励起子対が分子のオーダーした領域において ピコ秒-ナノ秒のスケールで移動することにより、全体として一重項状態にあった励起子対から五重項状態励起子対へと変換するS-Qミキシング(一重項-五重項混合)反応が起こっていると提案している, この凝集体で得られたようなスペクトルと類似する時間分解EPR信号が観測されたことから, 同様なメカニズムが金ナノ粒子表面に結合したテトラセン誘導体においても起こっていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
新しい研究環境における実験環境の構築を行い, 時間分解電子スピン共鳴計測および, パルスEPR測定により, より詳細なスペクトルを得る. 今年度, これまで得た電子スピン共鳴スペクトルの結果について 理論的な解析を行う。 量子論的なスピンダイナミクスを計算して, スペクトルシミュレーションプログラムを作成して解析する.得られた時定数や緩和定数等を元に, 一重項分裂反応におけるスピン変換機構を議論する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は申請者は半年間をアメリカに滞在し, 共同して研究を行った. その後, 日本に戻って直後に異動した. 現在の研究環境において, 新しい研究スペースを得ることになった. しかし, 研究スペースは大幅な工事が必要であり, その工事スケジュールの関係で, 部屋の使用ができるようになるのは4月以降であった. そのため予定を大幅に変更して, 次年度の実験スペース構築に必要となる費用を繰り越した.
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