研究実績の概要 |
タンパク質やDNAのような巨大生体分子の構造解析では、従来よりX線やNMRを用いる手法が一般的であるが、近年では一分子レベルでその構造や物性を議論する試みとして、気相中での物性測定に注目が集まっている。本研究では、最近開発した液滴分子線赤外レーザー蒸発気相共鳴ラマン分光装置にさらに改良を加え、高分解能のスペクトルを短時間で測定することを目指す。初年度には、これまで用いていたモノクロメータと光電子増倍管での分光・検出から、ポリクロメータとCCD検出器を用いた分光・検出に変更してミオグロビンヘムの気相共鳴ラマンスペクトルの測定を試みたが、実験条件を最適化しても顕著な信号は観測できなかった。そこで、2年度は分光器をモノクロメータに戻して、検出器のみ光電子増倍管からCCDに変更することを試みた。これにより、標的とするミオグロビンヘムの共鳴ラマンスペクトルを迅速に測定することに成功した。しかし信号強度が弱く、より高感度に観測する工夫が必要であることが分かった。そこで3,4年度は、標的とするタンパク質をシトクロムcに変更した。シトクロムcでは電子スペクトルを気相中で綺麗に測定できるため、励起レーザー光の波長を最適化しやすい。また観測されるヘム構造が1種であるため、シャープな振動構造を観測できる可能性が高い。その結果、シトクロムcのSoret帯において、ミオグロビンに比べて高感度に共鳴ラマンスペクトルを取得することに成功した。しかしながら、Soret帯以外の領域では明確な共鳴ラマンバンドを観測することができなかった。この原因としてシトクロムcの芳香族アミノ酸由来の蛍光を十分に排除しきれていない可能性が考えられる。今後は分光器を2台併用するなどの対策で蛍光成分を排除したスペクトル測定を実施する必要があると考えている。
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