tert-butanol水溶液中におけるポリスチレン粒子のブラウン運動の観測を行い、その並進変位の時間依存性から直径1μ粒子のブラウン運動粒子の受けるミクロな粘性率を見積もった。さらに、ウベローデ粘性率を用いてtert-butanol水溶液のマクロな粘性率を測定した。ミクロな粘性率とマクロな粘性率の比較を行ったところ、ブラウン運動粒子の受ける粘性率はマクロな粘性率よりも低く見積もられ、最大で7%乖離していることが明らかとなった。ミクロとマクロな粘性率の乖離が生じる濃度領域は、tert-butanolのモル分率が0.1付近であった。この乖離が生じる濃度領域は、エタノールや1-プロパノール水溶液などの他のモノアルコールにおいても共通しており、水の豊富な領域において、粒子のブラウン運動とマクロな粘性率との間に乖離が生じることが確かめられた。これらの結果は、少量のモノアルコール分子によって誘起される水のネットワーク構造を乱れが微粒子の並進ブラウンのダイナミクスに影響を及ぼしていることを示唆している。 アルコール水溶液中におけるブラウン運動粒子のダイナミクスについて、更なる知見を得るために、楕円体ポリスチレン粒子を作製し、その並進ブラウン運動と回転ブラウン運動を同時に観測し、並進変位と回転変位の時間依存性の解析を行った。定量的な評価を行うには、統計数が不足しているものの、並進変位と回転変位から見積もられる粘性率は、共にマクロな粘性率よりも低く見積もられる傾向が得られている。並進変位と回転変位とマクロな粘性率との乖離を定量的に評価することによって、アルコール水溶液中における微粒子のブラウン運動のダイナミクスと溶液中の水のネットワーク構造との関係性について、更なる知見が得られることが期待できる。
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