研究実績の概要 |
本研究では紫外-5-fsパルス光のスペクトル形をダブルピーク型に整形し、任意の分子振動モードを選択的、かつ、コヒーレントに励起する手法を開発した。 (1)ダブルピーク型パルス光の発生 本年度は、実験精度を向上させるために、パソコン制御可能な電動ステージを導入し、実験室外からの遠隔操作によるスペクトル整形、及び、試料交換を可能にした。具体的には、スペクトル整形時に用いている金属板をピエゾ制御の電動2軸ステージに取り付けた。さらに、金属加工により新たに試料ホルダーを作成し、電動2軸ステージに設置することでオートサンプラーを構築した。以上、実験者入室による実験環境乱れを抑制することで、試料濃度や励起光スペクトル等に依存する反応ダイナミクスの比較測定を実現した。 (2,3)分子振動の選択励起 極性溶媒中の9,9′-ビアントラセンは、紫外光照射により局所励起状態へと電子励起すると、より安定な電荷移動状態へと遷移する。本年度は9,9′-ビアントラセンのアセトニトリル溶液を試料とし、電子励起-振動基底状態へ選択的に励起した場合と、電子励起-振動第一励起状態に選択的に励起した場合との、反応ダイナミクスを比較した。電子状態の動的過程解析の結果、振動基底状態に励起した場合には、振動第一励起状態に励起した場合よりも遷移速度が速くなることが示された。さらに振動状態の動的過程解析から、振動基底状態に励起した場合には、振動第一励起状態に励起した場合よりも、誘起した分子振動コヒーレンスの保持時間が長いことが示された(論文投稿中)。 また、ビアントラセンよりも対称性が低い有機化合物として、レーザー色素DCMの電子励起状態における反応ダイナミクスを解析した。
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