研究課題/領域番号 |
19K15514
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
橋谷田 俊 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 基礎科学特別研究員 (40805454)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キラリティ / 光学活性 / プラズモン / 近接場光 / ナノ物質 / 表面増強分光法 / 偏光計測 / 光圧 |
研究実績の概要 |
本研究では,アキラルな(キラルでない)金属ナノ構造がナノ空間に創る強くねじれた光電場の発生領域に光圧を活用してキラル分子を配置することで光と分子の相互作用効率を高め,キラル分子の光学応答を増強することを目指している。本年度はまず,光ピンセットおよび微小領域におけるキラル分光計測が実施できる偏光顕微鏡の開発に取り組んだ。開発した偏光顕微鏡の性能評価のため,キラル金ナノ構造(ガラス基板上に作製した卍型金ナノ構造)の円二色性スペクトルを計測したところ,市販の円二色性分散計を用いた計測で得られたスペクトルとほぼ同じスペクトルを得ることに成功した。次に,アキラルナノ構造を用いたキラル分子検出の対照実験として,キラルナノ構造を用いたキラル分子の検出を試みたが,その検出には成功しなかった。本研究で用いたキラルナノ構造は可視光領域で大きな円二色性を示すことから(g値~0.3),ナノ構造周辺には強くねじれた光電場が発生していると予測されるが,検出対象のキラル分子は近紫外線領域では光吸収を示すものの可視光領域では光吸収を示さないため,相互作用効率が低く,検出に至らなかった可能性がある。そこで,次に近紫外線領域で強くねじれた光電場を発生させる方法を,散乱電磁場の厳密解が知られている球状ナノ粒子を用いて理論的に検討した。可視光領域では強くねじれた光電場を発生する直径100 nm程度の球状金ナノ粒子を直線偏光励起したところ,近紫外線領域では部分的に円偏光した光電場を局所的に発生することを理論計算で見出した。解析の結果,近紫外線領域に存在する複数の高次モードが発生する光電場の干渉によってねじれた光電場が発生することが明らかとなった。これに関連して,可視光領域に電気双極子モードと電気四重極子モードが存在する球状金ナノ粒子を直線偏光で励起すると遠方場領域で円偏光を散乱することを実験で示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,金属ナノ構造体が発生する強くねじれた光電場とキラル分子の強い相互作用を誘起することを目標としており,そのための実験装置は整備され,実験研究も進んでいる。しかし,金属ナノ構造体を用いたキラル分子の検出には至っておらず,これは次年度に取り組むべき課題となっている。一方,研究を進めていく中で,散乱電磁場の厳密解が存在する球状ナノ粒子が強くねじれた光電場の発生源として利用できる可能性を見出しており,これを用いたキラル分子検出という研究の展開も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き金属ナノ構造体を用いたキラル分子検出実験を進める。今後は検出対象として可視光領域に光吸収を示すキラル分子や外部刺激によりキラリティが反転するキラル分子を用いる。このような特殊な試料の入手のため,ナノテクプラットフォーム等を通じて外部との共同研究を積極的に推進する。ナノ構造体の作製には電子線描画リフトオフ法を用いるとともに,溝のパターンを形成した基板にナノ粒子を埋め込む方法も検討し,ナノ構造基板の作製時間及びコストの最適化を図る。
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