本昨年度までにアキラルナノ構造を用いたキラル分子検出の対照実験としてキラルナノ構造を用いた実験を試みたが,キラル検出には至らなかった。そこで本年度は,(1)三次元でキラルな手裏剣型金ナノ構造の基礎的な光学特性を明らかにし,その後(2)ナノ構造―分子共存系の光学計測を進めることにした。 課題(1)では,まず偏光顕微鏡の試料ステージを入射直線偏光に対する試料の向きを調整できるように改良した。改良した装置を用いてナノ構造試料を計測したところ,試料の偏光特性を記述するJones行列の行列要素の振幅及び位相を決定することに成功した。実験で得られたJones行列から、興味深いことに,手裏剣型金ナノ構造は三次元でキラルであるのにも関わらず三次元キラル物質に特有な円偏光二色性(CD)は示さない一方で,二次元キラル物質に特有な円偏光変換二色性(CCD)を示すことが明らかになった。この特異な光学応答のメカニズムを明らかにするためにBorn-Kuhnモデルを用いて理論計算を行ったところ,光が透過する配置ではCDを示すこと,光が反射する配置では実験結果と同様にCDは示さずCCDを示すことが明らかになった。 課題(2)では,手裏剣型金ナノ構造とアキラル色素分子の共存系の光学計測を実施したところ円偏光発光が観測された。ナノ構造による円偏光発光は,キラル近接場光と分子の相互作用の大きさと相関していると考えられ,従って円偏光発光を観測することにより高感度キラル検出ができる可能性がある。そこで手裏剣型金ナノ構造とキラルな超分子であるタンパク質の共存系の円偏光発光を観測したところ,ナノ構造のキラリティが異なると円偏光発光のピークの振幅が大きく異なることを実験で見出した。
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