研究課題/領域番号 |
19K15517
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 仁徳 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (90812595)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超分子化学 / イオンラジカル塩 / 相転移 / イオン伝導 / 分子性半導体 / ガラス転移 |
研究実績の概要 |
融解するアニオンラジカル塩のライブラリ構築を目的に、[Ni(dmit)2]- (dmit2- = 11,3-dithiole-2-thione-4,5-dithiolate)およびdibenzo[24]crown-8 (DB24C8) をそれぞれアニオン、ホスト分子として固定し、カチオンとして、様々なアルキル鎖長を持つイミダゾリウムおよびピリジニウム誘導体を導入した塩を作製した。 得られた結晶の単結晶X線構造解析より、カチオンのアルキル鎖長が3以下の場合、DB24C8が1次元のカラム構造を形成し、カチオンをDB24C8の環内に完全に包接した結晶が得られた。熱重量示差熱測定 (TG-DTA) より、熱的に安定な420 K以下に融解に対応するピークを示した。アルキル鎖長の長いカチオンを導入すると、組成比の異なる結晶が得られ、融点は単調に減少しなかったことから、融点の制御にはカチオンのアルキル鎖長だけではなく、結晶構造を含めた分子設計が必要であるといえる。 ITO電極に微結晶試料をはさみ、交流伝導度の温度―周波数依存性を測定した。室温から融点以下の固相において、交流伝導度は温度上昇に伴って上昇し、低周波数域には周波数に依存しないプラトーを示した。交流伝導度は、周波数に依存しない直流伝導成分と、周波数のべき乗に依存する伝導成分の足し合わせで記述できることから、直流伝導成分は[Ni(dmit)2]- に由来する半導体電子伝導であると考えられる。一方、融解後の液相では、高周波数域で交流伝導度はほぼ一定値だったが、低周波数になるにつれて、交流伝導度が減少していく挙動が見られた。これは電極分極効果によって,電極界面へのイオンの移動が生じ、空間電荷領域を形成したためと考えられる。液相では、イオン伝導を示すことと対応しているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画のとおり、融解するイオンラジカル塩のライブラリ構築が順調に進んでいる。構築しつつあるライブラリから、水素結合を形成しないN-アルキルヘテロ環カチオンの選択と、カチオンを環内に包接可能な大環状クラウンエーテルを導入することが、融解するアニオンラジカル塩を得るための分子設計として有効であるといえる。また融点制御にあたっての分子設計に関しても、有効な知見が得られている。例えば、dibenzo[24]crown-8と、1-ethylpyridinium (1EtPy) または1-ethyl-4-methylpyridinium (1Et4MePy) からなる超分子カチオンを[Ni(dmit)2]塩 (dmit2- = 1,3-dithiole-2-thione-4,5-dithiolate)に導入し、結晶の融点を比較した(結晶をそれぞれ1, 2とする)。結晶1および2の融点は、それぞれ378, 385 K だった。カチオン:dibenzo[24]crown-8:[Ni(dmit)2] の組成比は、結晶1および2では、それぞれ2:3:2、1:2:1と異なっていた。融解塩の温度制御するためには、カチオンのアルキル鎖長だけではなく結晶構造を含めた分子設計が必要であることがわかった。 電気物性に関する検討に関しても、十分な進展が見られた。当初計画通り、温度制御装置を購入し、既存の装置と組み合わせることで80-500 K の範囲で交流伝導度測定を可能とするシステムを構築した。交流伝導度の温度依存性測定の結果、融解する塩は固相において半導体電子伝導を示し、液相でイオン伝導を示すことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後もライブラリ構築を進めるとともに、整備した測定環境を活用し電気物性測定を進めていく。ライブラリ構築指針として、クラウンエーテルの環サイズの変更や、ラリアットクラウンエーテルなどの、未検討としていた課題についても検討を進める。 これまでの検討の中から、一部の塩において融解によってイオンラジカル塩から中性分子であるクラウンエーテルが不均化し、塩が可逆に転移しないことが見出された。可逆な転移による構造―物性相関を検討する上で、不均化を抑制することが融解する塩の理解と高機能化における課題である。アニオン―カチオン間距離を遠ざけつつ、ホスト分子とカチオンとの相互作用の強い超分子カチオンをアニオンラジカル塩に導入することが、不均化を抑制する方策として有効であると考えている。そこで、[2.2.2]cryptandと無機カチオンであるLi, Naとの超分子カチオンをアニオンラジカル塩に導入し、不均化の抑制を試みる。また、液相で回転やシャトル運動など、高い運動自由度を持つロタキサンやカテナンなどの分子機械をカチオンとしてアニオンラジカル塩に導入することを検討する。
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