本研究の目的はトリボルミネッセンス(結晶を粉砕した際に発行を伴う現象)を示す材料について、単一ミクロ単結晶レベルでそのメカニズムの解明を試みることである。具体的な手法として、原子間力顕微鏡と蛍光顕微鏡を組み合わせたハイブリッド顕微鏡を用い、原子間力顕微鏡の短針によって結晶を粉砕し、その発光を蛍光顕微鏡で観測するというものである。試料選択として、発光が特徴的で誤認を防ぎやすいEu錯体について行う。 本年度では、トリボルミネッセンスと似た現象である応力発光(応力を加えることによって発光する現象)を比較実験として行う為に、CsPbBr3ペロブスカイトナノ結晶の合成とそのナノ物性を評価した。CsPbBr3ナノ結晶は化学的・光化学的に比較的不安定であるため、応力発光の実験を行う前に、外部環境の発光物性の依存性を単一ナノ結晶レベルで検討した。その結果、CsPbBr3は様々な溶媒に対して、それぞれ異なる挙動を示すことを明らかにした。 全期間を通じて、単一マイクロ結晶のトリボルミネッセンスの観測にはマクロスケールとは全く異なる現象として理解しなければならないことが明らかとなった。マクロスケールでは結晶の異方性や圧力印加の方法に関して考慮していない場合でも、系が十分大きいために確率的にトリボルミネッセンスを観測することができる。一方で、単一ミクロ結晶では結晶面が特定の方向を向いており、特定の方向からのみ圧力を印加するため、トリボルミネッセンスが生じ得ない状態になる場合は観測が難しい。
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