本研究は光捕集効果を持つアンテナ分子を含有したフラーレンナノ粒子を合成し、実用可能な光線力学薬剤を開発することを目指す。昨年度までに3種類のポルフィリン誘導体およびポルフィリンより長波長領域に吸収帯を持つフタロシアニン誘導体をアンテナ分子として導入したフラーレン名の粒子を合成することに成功した。これらのアンテナ分子含有フラーレンナノ粒子はアンテナ分子を含まないフラーレンナノ粒子に比べて、光照射時の一重項酸素発生量が10から31%増大することが明らかになっていた。また、6種類のC60誘導体を用いてナノ粒子を合成することにも成功した。本年度は、これまでの成果を元に、種々のポルフィリン誘導体またはフタロシアニン誘導体とフラーレン誘導体を組み合わせたナノ粒子の合成と、それらの一重項酸素発生能の評価および細胞毒性の評価を行なった。結果、合成したフラーレンナノ粒子の細胞への導入は確認されたものの、ポルフィリン誘導体またはフタロシアニン誘導体を含有させたことによる優位性は確認されなかった。原因として、細胞への導入量が少ないことと、細胞中での一重項酸素発生量が少ないことが考えられる。そこで、プラズモン共鳴による一重項酸素発生能の向上を目指し、新たにフラーレン/金ナノ粒子複合体の合成も試みた。合成方法を工夫することで、フラーレンナノ粒子に直径2nmから20nm程度の金ナノ粒子が付着した複合ナノ粒子を合成することに成功した。また、光照射により、金ナノ粒子を付着させたほうが、金ナノ粒子を付着させないフラーレンナノ粒子に比べて、一重項酸素発生量が増大することが明らかとなった。
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