研究課題/領域番号 |
19K15525
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三橋 了爾 金沢大学, GS教育系, 助教 (60756667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 単イオン磁石 / 分子間水素結合 / 磁気緩和ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノサイズ磁石である単分子磁石化合物における磁気緩和ダイナミクスへの分子間相互作用の影響を解明することを目的としている。単分子磁石化合物は、次世代の高密度記録素子や量子情報処理への応用が期待されている。これまでに数多くの例が報告されているが、外部磁場が存在しないゼロ磁場下では量子トンネリングによって迅速な磁気緩和が進行するために、磁気情報を保存できない。申請者は、単分子磁石化合物に分子間相互作用を導入することで量子トンネリングの抑制および緩和ダイナミクスの制御に取り組んでいる。
2020年度はまず、前年度までに単分子磁石挙動を報告した四配位四面体型コバルト(II)錯体に加えてさらにもう1種の類似コバルト(II)錯体を合成した。この錯体は結晶中で他の錯体と同様に1次元の水素結合ネットワークを形成する一方で、その分子間距離等の配列が異なることが明らかになった。これらの錯体の単分子磁石挙動を比較することで、結晶中の分子配列によってその磁気緩和ダイナミクスが大きく変化することがわかった。結晶中での分子配列の磁気緩和過程への影響をさらに詳細に調査するために、一連のコバルト(II)錯体に対して非磁性の亜鉛(II)のドーピングによる磁気希釈を行った。その結果、量子トンネリングが観測されなかった化合物においては磁気緩和挙動にまったくが変化見られなかった。一方で、純粋なコバルト(II)錯体の結晶で顕著な量子トンネリングが観測された化合物においても、コバルト(II)イオンを非磁性の亜鉛(II)イオンに30%程度置換することで量子トンネリングを完全に抑制できることが確認できた。これは、一次元鎖内におけるコバルト(II)錯体の一部が非磁性の亜鉛(II)錯体に置換されたことによって、鎖内の隣接分子からの磁気的摂動が非対称になったために量子トンネリングが抑制されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度までに、4種の異なる水素結合ネットワークを有するコバルト(II)錯体を合成し、その磁気的性質を比較することで結晶中の分子間距離および1次元配列がその磁気緩和挙動に大きく影響することがわかった。また、亜鉛(II)イオンのドーピングによって、単分子磁石における量子トンネリングを分子間磁気的相互作用を変化させることで効果的に抑制できることが確認できた。次年度は分子間水素結合によって分子配列を制御する手法を六配位八面体型コバルト(II)錯体へ適用することを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究が対象とする化合物群における水素結合ネットワークと単分子磁石挙動を相関を明らかにすることは、単分子磁石化合物における磁気緩和ダイナミクスの解明につながる。2020年度までの成果から、コバルト(II)錯体を分子間水素結合によって配列させる手法は電荷を持たない四面体型コバルト(II)錯体が自己集合するため分子間距離が比較的近くなってしまう傾向があることが明らかになった。また、1次元の水素結合鎖を構築したとしても鎖間の距離が鎖内の距離とさほど変わらないために、鎖内の分子間磁気的相互作用によって量子トンネリングが抑制されたとしても鎖間の相互作用が量子トンネリングを誘起してしまう可能性がある。そこで、次年度は、カチオン性のコバルト(II)錯体と非磁性アニオンの間に水素結合を形成させることで、さらに高度な分子配列制御を試み、その単分子磁石挙動を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行の影響で、国内外の学会のほとんどが中止または延期となってしまったために、旅費が使用できなかった。2021年度に延期となった国際学会に参加を計画している。
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