フラーレンやカーボンナノリングをはじめ、空間構造を有するπ電子共役系分子:「π共役空間」が機能性材料として注目されている。外的因子で機能制御可能な「π共役空間」を構築するには、既存の剛直なC=C結合に代わる新たな電子共役構造を活用した空間の「柔軟化」が重要である。本課題では、柔軟なジシランσ結合 (Si-Si) とπ電子共役系との間に形成されるσ-π共役に着目し、ジシラン結合を架橋部位として芳香環を連結した、新奇共役空間:「σ-π共役空間」 を構築し、その刺激応答性材料としての活用可能性を探究した。 2019年度はまずσ-π共役空間として、複数の芳香環とジシランが環状に連結した「ジシラン架橋マクロサイクル」を設計し、その遷移金属触媒を用いた合成法を検討・確立した。さらに、得られたジシラン架橋マクロサイクルの単結晶が、-150℃付近で結晶-結晶挙動を示し、それが柔軟なジシランσ結合まわりのコンフォーメーション変化に起因していることを、示唆走査熱量測定ならびにX線構造解析を用いて明らかにした。 2020年度はジシラン架橋マクロサイクルの単結晶が示す温度相転移が誘起する結晶の運動挙動について評価を行った。結果として、-150℃付近で結晶-結晶間で熱相転移する際に、結晶がジャンプしたり、壊れて弾け飛ぶ現象 (サーモサリエント現象) を示すことを見出した。単結晶並びに温度可変粉末X線回折を用いた詳細な構造解析の結果、結晶中のジシラン架橋マクロサイクルが、熱相転移の際に協奏的な構造変換 (平行クランク運動) を示すことが明らかとなり、それに伴う結晶格子の異方的な収縮/伸長が、サーモサリエント現象を誘発していることが示唆された。以上の結果は、柔軟なジシラン結合を主骨格としたσ-π共役空間の外部刺激応答性の結晶材料としての活用可能性を示唆する。
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