研究課題/領域番号 |
19K15533
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
土戸 良高 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (00814344)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子ギア / 分子機械 / 分子ブレーキ / トリプチセン / アゾベンゼン / 回転運動 |
研究実績の概要 |
本研究では,歯車状構造をもつトリプチセン等の芳香環が噛み合った構造をもつ有機化合物である分子ギアの合成と回転伝達の解析・制御を目的としている.一昨年度の研究では,本研究で計画した3つの目的分子の全ての合成に成功し,その回転挙動を明らかにすることに成功した.本年度の研究では,合成した分子ギアの外部刺激による回転速度の変調に成功した. 1) 昨年度の研究において回転子(トリプチセン)の回転運動を変調できるブレーキ部位が組み込まれた分子ギアの合成に成功した.具体的な分子構造としては,2つのジエチニルトリプチシル基と1つのジエチニルアンスリル基を含む三角形状の大環状構造を主骨格とし,三角形の頂点の一箇所が白金(II)ビスホスフィン錯体,残り2箇所はアゾベンゼン部位が導入されたオルトフェニレン部位で構築された分子である.当初,アゾベンゼンの光異性化による構造変化によってトリプチセン回転子の回転を物理的に阻害することを計画していたが,狙いの挙動は起こらなかった.一方,この分子に銀イオンを添加したところ,回転運動が遅くなったことがNMR測定より明らかとなった.これは分子内のエチニル基に銀イオンが配位したことに起因している.この状態でアゾベンゼンを光異性化すると,さらに回転運動が遅くなった.以上より,アゾベンゼンの光異性化(光刺激)と分子内のエチニル基への銀イオンのπ配位(化学刺激)という2種類の外部刺激が複合的に作用して,分子ギアの回転速度が変調したことを意味している. 2) 分子ギアの新構造として白金(II)ビスホスフィン錯体部位を二核金(I)ビスホスフィン錯体に置換した分子の合成を試みたところ予期しない反応が進行した.このセレンディピティを発展し,ベンゼン環がリング状に結合した有機化合物であるシクロパラフェニレンの新しい合成手法の開発に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究では,当初の研究目標の一つである「外部刺激によって分子ギアの回転運動を制御できるのか」という問いに対して新しい知見を得た.すなわち,当初の研究目標では分子内に導入したアゾベンゼンの光異性化のみを用いた回転制御を計画していたが,本年度の研究ではアゾベンゼンの光異性化(光刺激)と分子内のエチニル基への銀イオンのπ配位(化学刺激)という2種類の外部刺激を組み合わせることで分子ギアの2段階の回転速度の制御を達成した.これは当初の計画を上回る研究成果であり,複雑な運動挙動を示す分子機械の開発に大きく寄与するものであると思われる. さらに金(I)錯体を用いた新規分子ギアの合成を検討している過程で得られたセレンディピティから新規シクロパラフェニレンの合成法の開発にも成功した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,昨年度成功した光刺激と化学刺激を用いた分子ギアの回転運動の多段階制御の詳細な回転速度の評価を行う.具体的には化学交換を観測する二次元核磁気共鳴法(EXSY)および温度可変核磁気共鳴(VT-NMR)測定を用いた評価を計画している. また本研究から派生した金(I)錯体を用いたシクロパラフェニレン合成に関しても基質の適用範囲の調査を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画よりも早く複数の目的分子の合成を達成することができたこと,さらに新型コロナウィルスにより,参加を予定していた学会が軒並み中止やオンライン開催となったため,研究計画と予算執行を一部変更した.本年度の研究では,目的分子の詳細な回転運動の評価を計画しているため,繰越した経費は,大量合成に必要なガラス器具および試薬の購入に充てる.
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