本研究では,歯車状構造をもつトリプチセン等の芳香環が噛み合った構造をもつ有機化合物である分子ギアの合成と回転伝達の解析・制御を目的としている.これまでの研究によって,当初計画した3つの目的分子,すなわち,1) U字型構造をもつ有機スペーサーを用いることで最大6個の回転子が並列に噛み合った「平歯車型分子ギア」,2) V字型白金錯体をスペーサーを用いることで回転子が垂直に噛み合った「傘歯車型分子ギア」,3) 「ブレーキ部位」が組み込まれた分子ギアを合成することに成功した.これらの回転子は有機溶媒中で連動して回転運動しており,その速度は回転子の数に依存することが明らかとなった.3)に関しては光刺激(紫外光照射)と化学刺激(Ag配位)を用いた分子ギアの回転運動の多段階制御に成功している. 本年度の研究では,上記の多段階制御の詳細な解析を行い,単結晶X線構造解析および31P NMR滴定実験によって,当初Agは1つ配位しているものであると考えていたが2つ配位していることを明らかとした.その結果を踏まえ,量子化学計算を再実施し,Agの配位による回転速度の変化する理由に関して考察した.さらに,これまでに得られた研究データの整理を行うと共に論文化の際に必要な化合物データの収集を行った.
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