研究課題/領域番号 |
19K15538
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荒巻 吉孝 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779678)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 一電子移動(SET) / ラジカル / ホウ素 / 水素原子移動(HAT) / 酸化還元 / 電荷移動 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的である分子内での一電子移動を利用した自己活性化型触媒の探求を行った。まず申請書に記載したプロトタイプの分子の合成・物性評価を行った後に、分子内での一電子水素引き抜き反応の検討を行ったが望みの反応は進行せず、触媒分子が未反応のまま回収されるに留まった。この理由を明らかにするため溶液中での分子構造に関する分光学的な解析を行った結果、ルイス酸・塩基の距離が接近しすぎ二電子移動反応である分子内配位結合形成が優先し一電子移動反応が起こらない、もしくは一電子移動後も逆電子移動反応が非常に早くなり一電子移動後の活性種である電荷分離状態の寿命が非常に短くなってしまっているということが示唆され、今後の分子設計指針に関する知見を得た。この結果を受け申請書に提案した他に、アレノールを電子供与基として用いた分子を設計・合成した。反応機構に関して水素引き抜き反応が進行しているかについての実験的な証拠はまだ得られていないが、この分子が光照射下において炭素-炭素結合形成反応における触媒として機能することを見出し、次年度でのブレークスルーが期待できる結果となった。 また、分子内での一電子移動を利用した触媒分子の合成と並行して、ルイス酸・塩基間での一電子移動が従来報告されていた特殊な分子間でのみ進行するのではなく、より一般的な分子間でも起こることを実証し、触媒設計指針の拡張を行った。ルイス酸としてトリスペンタフルオロフェニルボラン、ルイス塩基としてアニリン誘導体を用いてこれら分子間で一電子移動反応が起こることを各種分光学的手法により多角的に実証し、その基礎的な知見をもとに触媒的炭素-炭素結合形成反応へと展開した。これらの成果はChemical Science誌に投稿・受理され、FRONT COVERとして大きくハイライトされた。また、国内での学会において1件の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に記載していた分子は、目的の触媒としては機能しないことが明らかになったが今後の分子設計における知見を得ることは出来たと考えている。このことから、当初の設計指針に固執せず柔軟に他の電子供与基を検討するという設計方針の大幅な変更へと舵を切ることができた。その結果、反応機構が想定通りかどうかは現段階では定かではないものの、光照射下において結合形成反応の触媒として機能する分子を開発できた。これは研究計画書の細部とは異なるものの、研究課題名である「光励起による分子内一電子移動反応を利用した新規自己活性型水素移動触媒の開発」という最終目標に向けては順調に進行していると言える。 また、分子内電子移動という観点にとらわれずに分子間での一電子移動反応にも視点を広げたことで、従来までルイス酸として考えられていたホウ素化合物の一電子酸化・還元触媒としての機能を見出すことに成功した。これも当初の研究計画では想定していなかった成果ではないものの、今後の一電子移動反応を利用した触媒設計においては重要な知見が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書に記載されていた分子の設計変更を行う。アミドとホウ素置換基の分子内電子移動は計画書に記載した分子設計では触媒としての機能が期待できないことが明らかとなったため、アミドとπ共役骨格の結合箇所の変更を行い、置換位置の違いの効果を検証する。また、本研究実績にて報告したアレノール部位を有する触媒分子においてはスペーサーであるπ骨格の構造最適化に取り組み、より高活性かつ基質適用範囲の広い触媒の開発を目指すとともに、過渡吸収や発光寿命測定といった時間分解分光法を駆使した反応機構の詳細な解析にも取り組む。加えてアレノール部位の他にもチオアレノールやアミデート、カルボキシレートなどのアニオン性電子供与部位をもった分子の合成を行い、この触媒設計指針が幅広い官能基においても適応可能であることを実証するとともに官能基の違いによる化学選択性や反応性の違いを明らかにしていき、本研究課題の一学理としての完成を目指す。
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