本年度では、高温でpドーパントとして安定に動作するパイ共役系分子を見出すことに成功した。半導体カーボンナノチューブ(CNT)をチャネル材料に用いた薄膜トランジスタを準備し、適切なパイ共役系分子をスピンコートすることで、200℃においてもp型でトランジスタして動作することを確認している。大気下においては十分なオン/オフ比が得られず封止層の利用が必須であることから、今後さらなる最適化が必要であるものの、分子によるCNTトランジスタの特性制御が可能となったことは今後の研究において有益な指針となりうる。 また、本年度は安価な多糖類ゲルを用いた半導体CNTを分離する新手法の開発にも成功している。架橋剤を用いた化学反応によって合成することのできる多孔質の多糖類ゲルを担体に用いたゲルろ過によって、半導体CNTが効率的に吸着され分離することが可能となる。さらに、熱架橋性アミンポリマーを用いた均質なCNT薄膜成膜法の開発と薄膜トランジスタ応用も報告している。部分的にメトキシカルボニル化されたポリアミンをスピンコート成膜し加熱することで不溶性フィルムとなるだけでなく、未反応のアミノ基を利用することでCNTの捕捉と成膜が可能である。本手法で作成された薄膜トランジスタは非常にばらつきが小さく優れた特性を示す。 これらの結果は上記のCNTトランジスタの特性研究を遂行する上で必須とも言える要素技術であり、今後これらの結果とあわせて研究を進めていくことで相乗的な発展が期待できる。
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