研究課題/領域番号 |
19K15540
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
行本 万里子 京都大学, 化学研究所, 助教 (70822964)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高反応性化学種 / 高周期14族元素 / カルコゲン / 互変異性 / 立体保護 |
研究実績の概要 |
α水素を有するカルボニル化合物にみられる「ケト-エノール互変異性化反応」は、有機化学の教科書には必ず記述があるだけでなく、自然界など我々の身近にも存在する基本反応である。しかし、この互変異性化反応が、高周期14族元素を含む多重結合でも起こりうる普遍的な事象であるかは、反応・構造・合成化学のいずれの面でも全く未解明の課題である。本研究では、α位水素を有し、カルボニル構成元素として高周期14族元素を有する重いケトン類と対応する重いエノール類の合成を行いその性質を明らかにすることを目的とし、2019年度は重いケトン類としてゲルマニウムーカルコゲン間二重結合化学種の合成を行なった。 本研究で目的とする化合物は、高反応性の化学結合を有するため、かさ高い置換基を用いる速度論的安定化を利用して立体保護を行う。高反応性である含14族元素多重結合を保護するため、また、重いカルボニル結合上にα水素を導入するためにかさ高いベンジル基を合成し、その14族元素上への導入を検討した。ケイ素上へのかさ高いベンジル基の導入は難しく、現在も検討を行っているが、ゲルマニウムを用いた場合は骨格構築を効率よく行うことができ、導入した置換基の立体保護効果により重いケトン類の原料となるメチレン置換ゲルミレンを熱的に安定な固体として高収率で得ることができた。単離したゲルミレンと16族元素導入試剤との反応からゲルマンチオン(R2Ge=S)、ゲルマンセロン(R2Ge=Se)、ゲルマンテロン(R2Ge=Te)への誘導を行い、対応する重いケトン類を高収率で得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するにあたり、重いカルボニル基上へのα水素の導入が必要である。一方でα水素が存在することにより立体保護効果が減少すると、目的の重いケトン類の合成・単離が困難になるが、置換基がかさ高すぎると骨格構築後の官能基変換が難しくなるという問題も生じる。本研究では、置換基の立体保護効果と14族元素上への立体保護基導入後の官能基変換のしやすさを考慮し、かさ高いベンジル置換基を合成し用いることとした。表題の含ゲルマニウム化合物については前述の通り、効率よく骨格構築が行えることがわかり、メチレン置換のゲルミレンと目的物である対応する重いケトン類(R2Ge=Ch, Ch = S, Se, Te)を合成・単離することに成功した。これらの化合物は、大型放射光施設SPring-8の装置を用いた単結晶X線構造解析により構造決定を行っている。対応する同族のケイ素化合物では、かさ高いベンジルリチウム化学種の発生が困難である等の問題が生じ、合成ルートについては現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
上記で述べた通り、含ケイ素化合物についてはかさ高いベンジル置換基の導入が難しく、目的物の合成検討に至っていない。含ケイ素化合物についても、目的物の合成を達成するべく、カップリング反応等を利用した骨格構築の検討を継続して行っていく。 含ゲルマニウム化合物については、得られた重いケトン類が酸または塩基との反応により対応する重いエノール類を与えるかどうかについて検討する。また、別途合成による重いエノール類の合成・単離についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計上していた特注のガラス器具は申請者の学内研究資金により調達することが出来たため、次年度使用額が生じた。遂行上必要なガラス器具の追加購入および論文投稿料として使用する。
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