研究実績の概要 |
α-水素を有するカルボニル化合物にみられる「ケト-エノール互変異性化反応」は、有機化学の教科書には必ず記述があるだけでなく、自然界など我々の身近にも存在する基本反応である。しかし、この互変異性化反応が、炭素と同族の高周期14族元素を含む多重結合でも起こりうる普遍的な事象であるか否かは、反応・構造・合成化学のいずれの面でも全く未解明の挑戦的課題である。本研究では、互変異性可能な重いケトン類と対応する重いエノール類の合成を行いその性質を明らかにすることを目的とした。研究期間内に、メチレン置換のゲルミレンおよび対応するゲルマニウム-16族元素(O, S, Se, Te)二重結合化学種の合成・単離に成功した。ゲルマニウム上にかさ高い置換基を2つ導入しているため、良質な単結晶を得ることが難しかったが、一方のかさ高い置換基をより結晶性の高い置換基へと変更することで結晶性が向上し単結晶X線結晶構造解析を行うことができた。α-水素を有するゲルマンカルコゲノンは、空気・水の存在により速やかに分解するが、不活性ガス雰囲気下では室温で安定であった。また、結晶構造・溶液中での構造の系統的比較を行ったところ、溶液中での自発的な異性化反応は認められなかった。酸の添加による重いエノールへの異性化、塩基によるα-位水素の引き抜き反応については現在検討を行なっている。 α-水素を有するケイ素-16族元素間二重結合化合物の合成については、前駆体の合成検討に留まっている。これは、用いるかさ高いベンジルリチウムの発生が困難であったこと、また上記のゲルマニウム化合物の骨格構築に用いた合成手法が対応するケイ素の系には応用できなかったことが原因として挙げられる。最近、新規に設計・合成したかさ高い置換基をケイ素上に導入することに成功しており、現在新しい分子設計でのシランカルコゲノン類の合成を進めている。
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