研究実績の概要 |
こする、ひっかくなどの弱い機械刺激によって発光特性が変化する現象を、発光性メカノクロミズム(MCL)と呼ぶ。研究代表者は初年度、1,2-ジケトンの一種であるチエニルジケトン誘導体が有機分子で初めての室温りん光メカノクロミズムを示すことを見出し、論文をまとめた(J. Mater. Chem. C 2019)。単結晶X線構造解析、各種分光分析および量子化学計算から、このMCLが分子の配座変化に起因することを確かめ、分子内カルコゲン結合の関与を明らかにした。 金属を含まない有機分子の高効率な室温りん光は挑戦的な課題であり、これを利用したMCLはほぼ未開拓な領域である。そこでさらに研究を進めた結果、分子の対称性と凝集系の物性に関して興味深い知見を得ることに成功した。すなわち、C2対称性を有する元の1,2-ジケトンの非対称化によって2つの誘導体を合成、詳細な物性評価を行った。その結果、(i)こするとりん光性を獲得するTurn-On応答分子の開発に成功した。この分子は元の分子と同形な結晶を与え、その高い同形性に立脚した詳細な構造-機能相関解析を行うことができた。これは有機分子では初めての機械刺激応答Turn-Onりん光であり、論文として報告した(Chem. Commun. 2020)。また、(ii)室温で液体状態をとり、かつりん光を示す分子の開発にも成功した。希薄溶液ではなく無溶媒液体状態で室温りん光を示す有機分子は1例しか報告がなく、既報より1桁以上高いりん光量子収率が得られた。これも論文に投稿済みである。 以上のように、カルコゲン結合を利用した室温りん光性メカノクロミック有機材料を複数実現した他、分子対称性とバルク物性の興味深い関係を見出すことに成功し、これを液体りん光材料に展開した。
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