将来、アミノ酸のシスチンやフェニルアラニンなどの側鎖を利用し、バイオナノテクノロジーに応用可能な導電性ペプチド開発のため、本研究では、シスチンの側鎖であるジスルフィド基とフェニルアラニンの側鎖であるフェニル基を交互に並べた新規導電性物質の合成と導電性の評価を目的とした。 計画では、Diels-Alder反応の特性を利用し、最終目的化合物がジスフィド基とフェニル基を隣接した構造となる予定だった。しかし、あらゆる合成方法を試したが、計画した目的化合物を得ることはできなかった。この理由として、主に2つの原因がある。 1つ目は、立体障害である。ジスルフィド基とフェニル基を隣接させなければいけないのだが、C-BrをNaSHを用いて、HS-C結合に変える、ありふれたSN2反応でさえ、隣接するフェニル基の立体障害のため、無反応だった。このような立体障害による無反応、もしくは、低収率の反応が多く見られた。 2つ目は、ジスルフィド基の新しい反応性である。通常の分子内反応よりも近くに固定された隣接基を配置するため、通常では起こらない保護基の脱離や、予期しない副反応などが見られた。しかし、この結果は、ジスルフィド基の全く新しい化学的性質として、新規分野を切り開いた。 この目的化合物とは異なるものの、パラ位に官能基を持ったジアリールジスルフィド化合物を用い、ジスルフィド基からの電子の取れやすさ(酸化電位)や電子の受け取りやすさ(還元電位)を測定し、調べた。その結果、片方のアリール環と、別のアリール環は電気的に相互作用していることが明らかとなった。通常、導電性を示す物質は、単結合と二重結合の繰り返し(共役)を平面上に持っており、これとは全く異なる構造のジスルフィド基が導電性を持っている可能性が高いことを明らかとした。
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