研究課題/領域番号 |
19K15551
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷井 沙織 東北大学, 薬学研究科, 助教 (20792295)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アゾ化合物 / ジホスフィン化合物 / ロジウム触媒 / 触媒反応 / N=N結合 / P-P結合 |
研究実績の概要 |
含窒素有機化合物は、多くの医農薬品や機能性有機材料にみられる。有機化合物中の窒素は元来、大気中の窒素をアンモニアに還元した後、多岐にわたる変換を経て有機化合物に取り込まれている。そこで、窒素分子から直接含窒素有機化合物の合成ができれば、含窒素有機化合物を容易にかつ短工程で合成できる手法の一つになると考えられる。本研究では、窒素分子の活性化を見据え、結合構造が類似しているヒドラジン N-N 結合やジアゼン N=N 結合を開裂・変換し、触媒のみを用いて N-X (X = C, N, P, S… etc) 結合を形成する反応を開発することとした。加えて、多様な含窒素有機化合物の合成を行うことも計画した。 本年度は、芳香族アゾ化合物 N=N 結合へ、ジホスフィンジスルフィド P-P 結合がロジウム触媒的に付加する反応を見出した。これにより、多様な新規 P-N-N-P 結合ユニットを与えることができる。P-P 結合が N=N 結合に付加した例はこれまでなく、新規触媒反応である。 また、酸触媒を用いた多環芳香族エーテルの効率的な合成法を開発した。この多環芳香族エーテルを用いて、N=N 結合あるいは N-N 結合と C-O 結合とを遷移金属触媒条件下で反応させ、結合切断・再配列反応あるいは付加反応に利用できると考えている。一般に多環芳香族化合物は特有の蛍光性や波長吸収などの機能を有するため、新規機能性を持つ含窒素有機化合物も合成が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一般的に、芳香族アゾ化合物中のジアゾ結合は配向基として働くことが多く、遷移金属触媒存在下では、ベンゼン環オルト位 C-H 結合活性化反応が多く報告されている。N=N 結合を直接活性化し、付加反応を進行させる例も報告されているもののわずかであり、付加する結合の種類は限定されている。芳香族アゾ化合物 N=N 結合のπ結合活性化反応は、発展の余地があると考えられる。 本年度開発した芳香族アゾ化合物とジホスフィンとの新規触媒的付加反応では、P-P 結合が N=N 結合へ付加し、新たな化合物群を創生できる。P-N-N-P ユニットは従来、塩基や金属試薬を用いた極性反応によって合成されてきたが、本手法はそれらを用いず、触媒のみで合成できる。新規合成手法によって、多くの新規化合物を容易に合成することができる。
また、芳香族アゾ化合物とジホスフィンとの付加反応の際に水素化ホウ素ナトリウムを一当量添加すると、ジホスフィン P-P 結合が P-H 結合へ還元された後、N=N 結合に付加し P-N-N-H 結合を合成した。またこのとき、アニリンも副生成物として得られることも分かった、このことは、ジアゼン N=N 結合が遷移金属触媒下において切断されていることを示唆する結果である。各条件において芳香族アゾ化合物 N=N 結合の付加あるいは開裂を自在に制御できると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本触媒反応を用いて、P-N-N-P結合を有する新たな化合物群の創生を行う。ジホスフィンとして環状ジホスフィン化合物を用いると、ヒドロピリダジン骨格の合成も可能になると考えている。このように多くの化合物群を合成することで、新規機能性有機化合物の発見にもつながると期待できる。 また、様々な触媒条件を検討し、芳香族アゾ化合物 N=N 結合の開裂反応も開発する。 同時に、N-N 結合を活性化する新たな反応開発も行う。先に所属研究室では、ロジウム触媒存在下、エーテル C-O 結合、エステル C-O 結合、フルオロベンゼン C-F 結合が活性かされ結合が開裂することを見出している。これらの化合物とヒドラジン N-N 結合あるいはジアゼン N=N 結合を反応させ、結合再配列反応あるいは付加反応を進行させることで、多様な新規化合物群を合成できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者が出産に伴い、産前産後休暇を取得し、代表者自身の研究時間が短くなったため、次年度使用額が生じました。 翌年度には、海外への学会の参加や、代表者の研究に伴う物品費の増加分として使用する予定です。
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