研究課題/領域番号 |
19K15552
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊池 隼 東北大学, 理学研究科, 助教 (20802656)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブレンステッド酸 / ラジカル反応 / 有機分子触媒 / 一電子酸化 / 光励起 |
研究実績の概要 |
ブレンステッド酸触媒は、古典的かつ汎用性の高い触媒であるが、その触媒作用に基づく反応は依然としてイオン反応の枠組みから脱していない。本研究では、ブレンステッド酸触媒による反応形式の拡充を目的とし、基質の活性化により生じた酸触媒の共役塩基を一電子酸化することで、「酸触媒」としての機能に加えて「ラジカル触媒」としての機能を発現させた、新規リレー型触媒反応系の開発を目指して検討を行った。 初年度は、ブレンステッド酸触媒の作用によって生じるカチオン種を光励起によって一電子酸化剤として機能させ、ラジカル反応へと展開することを試みた。その結果、クロメノールに対してブレンステッド酸触媒を作用させることで生じるベンゾピリリウムカチオン中間体が、可視光照射下、強力な一電子酸化剤として機能することを見出した。さらにトルエン存在下で反応を行うことで、ベンジルラジカルが発生し、トルエンのベンジル位にクロメン骨格を導入することに成功した。本反応はキラルブレンステッド酸触媒を作用させることで、触媒的不斉反応へと展開が可能であり、中程度のエナンチオ選択性の獲得に成功している。種々の反応機構解析により、本反応は、当初想定していた酸触媒の共役塩基からの一電子移動ではなく、トルエンからの一電子移動によって進行していることが明らかとなった。また、結合形成段階は、ラジカル付加機構で進行していることが理論計算の結果より示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定していた反応機構とは異なるものの、ブレンステッド酸触媒を用いた新たなラジカル反応の開発に成功し、また、不斉反応への応用が可能であることを見出した。高度な立体制御という観点からは依然として課題が残っているものの、反応条件を精査することで改善が可能であると考えられる。さらに、いくつかのカチオン中間体が光照射下、一電子酸化剤として機能することを見出しており、今後の反応系の拡充が期待できる。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在までに見出したラジカル反応において、キラルブレンステッド酸触媒による高度な立体制御の実現に向けて、触媒構造の検討を行う。また、さらなる励起カチオン種および一電子供与体となる基質の拡充を行うことで、より一般的な方法論としての確立を目指す。 一方で、反応基質や触媒の共役塩基の酸化還元電位を調節することで、当初想定していた「ブレンステッド酸触媒の共役塩基からの一電子移動」を経由した機構へと切り替えることも可能であると考えている。これにより基質適用範囲の大幅な拡充を試みる。
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