研究課題/領域番号 |
19K15559
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
高橋 講平 東京工業大学, 理学院, 助教 (00756108)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不活性結合活性化 / ピンサー型錯体 / 金属配位子協働作用 |
研究実績の概要 |
金属中心が求核的、配位子が求電子的に作用する形式の協働作用を利用した不活性結合切断に基づく触媒反応の実現を目指し、新たな錯体の合成ならびに不活性結合切断過程の観測について検討を行なった。具体的には新たな遷移金属錯体としてアルコキシカルベン、π-アルケンを求電子部位とし、ピンサー型構造によって中心金属上に固定した錯体を合成し、C-O、C-N、C-Fなどの不活性結合切断を経由する触媒反応の実現を目指した。まずP-(アルコキシカルベン)-Pピンサー型配位子を有する錯体に関して中心金属が1価カチオン性イリジウムであり、リン原子上の置換基が異なる新たな錯体の合成に成功した。現在のところこれらを用いた不活性結合切断の観測には至っていないものの、期待したように配位子が求電子的に、中心金属が求核的に作用したことを示す結果が得られている。また、P-(π-アルケン)-Pピンサー型配位子を有する錯体として1価のロジウム錯体を合成することに成功した。こちらを用いた際にも不活性結合の活性化の観測には至っていないが、種々の求核剤との反応を検討すると、強塩基を用いた際に期待した反応とは異なり、ベンゼンのC-H結合活性化が進行し、1価のフェニルロジウム錯体が生成することが明らかとなった。この反応は配位子のπ-アルケン部位のアリル位の脱プロトン化によって高活性なP-(η3-アリル)-Pピンサー型配位子を有する錯体が生じて進行していると考えられる。これはベンゼンの直接的官能基化反応へと繋がる結果であると共に、π-アルケン部位の脱プロトン化を利用した新たな機能として重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遷移金属錯体上で配位子が求電子的に協働作用することによる不活性結合切断を実現するべく、P-(アルコキシカルベン)-Pピンサー型配位子を有する1価のイリジウム錯体についてリン配位子上の置換基としてフェニル基を有するものを新たに合成した。合成した錯体を用いた不活性結合の切断の観測には至っていないが、配位子の求電子性を確認するため検討を行なったところ、2,6-ビスヒドロキシメチルピリジンとの反応においてそのアルコールの酸素原子がカルベン炭素に、水素がイリジウム上に付加した3価の錯体が生じることが明らかとなった。これはカルベン炭素が求電子的に、イリジウム中心が求核的に作用したことを示す重要な結果である。また、P-(π-アルケン)-Pピンサー型配位子を有する1価のロジウム錯体を新たに合成し、その反応性について調査した。その結果、期待したような形式の不活性結合の切断は観測できなかったものの、強塩基の共存下でベンゼンのC-H結合活性化が進行し、1価のフェニルロジウム錯体が生成することが明らかとなった。これは形式的にはベンゼンの脱プロトン化により1価のフェニルロジウム種が生成する珍しい過程である。この際、重ベンゼン中で反応を行うと配位子のπ-アルケン部位のアリル位が重水素化されたことから配位子がC-H結合切断段階に関与していることが明らかとなった。詳細な反応機構については現在調査中であるが、配位子のπ-アルケン部位のアリル位の脱プロトン化により高反応性のP-(η3-アリル)-Pピンサー型配位子を有する錯体が生じ、これがベンゼンのC-H結合切断に関与したことが支持されている。これは配位子の求電子性を利用した新たな機能として重要であり、今後はこの活性種の反応性を調べると共に、上記の反応で生じるフェニルロジウム種が他の基質に付加する形式の触媒反応の実現を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
まず、P-(アルコキシカルベン)-Pピンサー型配位子錯体を有するイリジウム錯体上での配位子の求電子的な作用に基づく不活性結合切断の観測を目指す。2,6-ビスヒドロキシメチルピリジンを用いた際に配位子が求電子的に作用することでO-H結合の切断が確認できたので、このヒドロキシ基をOMe、OPh、NHMe、NHPh基などに代えた化合物を合成し、そのO-C、N-C結合の切断の観測を試みる。また、これらの不活性結合切断に基づく触媒的炭素-炭素結合形成反応の実現を目指し、種々の不飽和結合を有する化合物、トランスメタル化剤などとの反応を検討する。また、異なるアプローチとして、アルコールのOH基の酸素原子が配位子に付加することを利用し、OH基を配向基としたC-H結合切断に基づく触媒反応を検討する。具体的には、脂肪族単純アルコールと各種不飽和結合、トランスメタル化剤などとの反応によってsp3 C-H結合の直接的官能基化を目指す。P-(π-アルケン)-Pピンサー型配位子を有するロジウム錯体を用いた研究に関しては、当初期待した配位子が求電子的に作用する形式の協働作用の実現を目指し、錯体をより電子不足にした1価カチオン性ロジウム錯体や3価ロジウムの錯体についても検討する。また、強塩基の共存下でベンゼンのC-H結合官能基化が観測できたので、これを利用した触媒反応の実現を目指し、ベンゼンと各種不飽和結合、求電子剤との反応を検討する。この際、ピンサー型配位子による立体障害や配位場の不足による反応性の低さが懸念されるため、反応性の向上を期待して二座配位子であるP-(π-アルケン)配位子や、解離しやすい窒素原子を有するP-(π-アルケン)-Nピンサー型配位子を有する錯体を新たに合成し、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではは有機金属錯体の合成、等量反応の検討、触媒反応の検討を並行して行う計画であったが、本年度は錯体の合成と等量反応の検討に注力したため、試薬購入等に用いる金額を比較的抑えることができた。次年度は上記全ての検討を行うため、必要な試薬、消耗品等の購入に充てる費用が多くなることが見込まれる。
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