研究課題/領域番号 |
19K15562
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増田 侑亮 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (20822307)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖 / 光反応 / 水 / 無保護 |
研究実績の概要 |
研究計画に従い、光を用いた糖の位置選択的脱酸素化および官能基化反応の開発に取り組んだ。検討を進めた結果、紫外光の照射下で適切な光触媒を用いることで、アルドースの2位選択的脱酸素化反応を見出した。この反応は水を溶媒とし無保護のアルドースを出発物質として用いることができる革新的な変換手法である。グルコースやマンノースなどの単糖に加え、マルトースやスクロースなどの二糖も反応に適用することができ、対応する2デオキシ糖を合成することができた。合成した2デオキシ糖を水素化ジイソブチルアルミニウムで還元することで、医薬分野において重要な2―デオキシアルドースへと変換することができた。以上の結果は、国際学術誌に投稿・掲載された。 さらに、光触媒としてイリジウム錯体およびアミンを適用することで、可視光を用いた温和な反応条件においても同様の脱酸素化反応が進行することがわかった。本手法により、収率の向上のみならず、基質適用範囲を2-ヒドロキシ環上ヘミアセタールや保護基を有する糖へと拡大することに成功した。 また、アルドン酸を出発物質とし1気圧の酸素雰囲気下アクリジニウム光触媒を作用させることで、脱炭酸と酸化反応が進行し、一炭素減炭したアルドースが得られることを見出した。従来の手法では、過酸化水素などの酸化剤を等量以上用いる点や有毒な金属触媒を用いる点が問題であったが、本手法は酸素を酸化剤とするクリーンな合成法と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、糖の2位選択的脱酸素化反応の開発に成功した。条件を精査することにより、想定していた単糖の反応に加えて複雑な構造を有する二糖にまで適用範囲を拡大することに成功した。また、ケトン触媒に代えてイリジウム触媒を用いることで、可視光による穏和な条件での反応へと展開した。紫外光を用いた反応に比べて、基質適用範囲の拡大が期待できる。さらに、酸素雰囲気下グルコン酸に対してアクリジニウム光触媒を作用させることで、脱炭酸と酸化が同時に進行し一炭素減炭したアルドースが得られることを見出した。この結果は、当初の研究計画を越えた新たな知見であり、脱炭酸官能基化など今後の発展が望まれる。 以上のことから、本研究課題は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
糖の2位選択的脱酸素化反応の開発で得た知見を基に、2位選択的官能基化反応へと展開する。具体的には、反応中間体として生じる糖のラジカル種を、ラジカル捕捉剤でトラップすることで官能基化する。捕捉剤としては、メチルアクリレートやメチルビニルケトンの不飽和化合物、ハロゲン化アリルなどのアリル化剤、Selectfluorなどのフッ素化剤などを用いて検討を行う予定である。同時に、ケトン型の触媒に留まらず、イリジウムやルテニウムを中心金属に持つ水溶性光触媒の開発にも取り組む。 同様に、アルドン酸の脱炭酸・酸化による炭素減炭反応の知見に基づいて、脱炭酸官能基化反応の開発を目指す。すなわち、アルドン酸と光触媒との反応によって生じるラジカル種を捕捉することで官能基化する。さらに、これらの手法により合成された糖を、医薬中間体や生体分子の合成へと利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により参加予定であった学会の旅費・参加費が不必要となったことや、それに伴う研究活動の遅れが、次年度使用額が生じた主な理由である。 次年度では、今後の推進方策で示した通りイリジウムやルテニウムなどの遷移金属錯体を触媒として反応の開発を行う。貴金属を中心とする金属錯体は一般に高価であり、これら消耗品費が必要となる。また、当初の研究計画に加えてアルドン酸の官能基化に関する研究を行う予定であり、追加の研究費が必要となる。
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