前年度に引き続き、無保護糖の水中での変換反応に取り組んだ。すでに無保護糖の異性化に有効であることがわかった水溶性イリジウム光酸化還元触媒について、物性の評価を行なった。励起状態での酸化電位を見積もったところ、従来の疎水性イリジウム錯体と同程度の酸化電位を有することがわかった。以上の結果は、水溶性イリジウム錯体が、これまでの光酸化還元触媒反応を水中反応へと転換可能であることを示している。実際に、本イリジウム錯体をニッケル触媒と共に用いることで、芳香族ハロゲン化物と有機ホウ素化合物との水中クロスカップリングが進行することを明らかにした。 水中での光反応を検討中に、水が基質として生成物に取り込まれる希有な反応を見出した。トリフェニルホスフィンとアルケンの水・アセトニトリル混合溶液に対して、イリジウム光触媒の存在下で可視光を照射したところ、シクロヘキサジエンを有するホスフィンオキシドが得られた。この反応では、トリフェニルホスフィンの炭素ーリン結合間にアルケンが挿入すると同時に、フェニル基のひとつが還元され、ホスフィンが酸化されている。入手容易な原料から温和な条件で一挙に複雑化合物を合成する極めて高付加価値な変換手法である。 水中でのアルケンの光反応に関する研究を推進中に、興味深い酸化反応が進行することを同時に見出した。すなわち、単純なアルケンとジアセチルの水系溶液に対して、酸素雰囲気下で可視光を照射すると、アルケンのジヒドロキシル化が進行しジオールが得られた。詳細な機構研究の結果、ジアセチルと酸素より生じる過酸化物がアルケンと反応することで、エポキシド中間体が生成していることがわかった。本反応は、毒性の高いオスミウムなどの金属試薬を用いないクリーンなジヒドロキシル化反応である。 以上、水中光反応により、無保護糖の変換のみならず、様々な新規分子変換反応が可能になった。
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