最終年度について、研究計画の中心である「リバーシブルなレドックスサイクル」機能を有したまま錯形成可能となるよう、錯形成部位を導入したフェニレンジアミン誘導体を配位子として用いた検討を行った。種々の2価金属イオンとの金属-配位子間の相互作用における電子的効果について分光学的手法を用いて検討を行ったところ、銅イオンに対して特に選択的に相互作用を行うことを確認している。本相互作用に基づくと考えられる金属-配位子混合溶液の色が変化することを目視および分光学的測定により確認している。詳細は現在検討中であるが、本現象はフェニレンジアミン部位の酸化により進行していることが示唆されており、銅塩の共存下において配位子骨格の酸化反応が進行することを示す結果であると考えている。一方、キノンジイミン誘導体について、種々の有機溶媒に溶解させた状態におけるフェニレンジアミンへの変換に関する検討を進めたところ、開放系におけるメタノールやジクロロメタン溶液においても進行し、用いる溶媒の種類により変換速度に差が生じることを確認している。本結果においてはさらに詳細な検討が必要ではあるが、キノンジイミン部位による物質の脱プロトン化、すなわち配位子部位の還元反応として利用できることを示唆する知見が得られている。 上で述べた最終年度の成果を含め、レドックスメディエーター部位の「酸化→還元」ならびに「還元→酸化」の両サイクルの進行に必要な金属種、および溶媒についての調査を行うことができた。「酸化→還元」サイクルにおいて得られた知見の一部については既に英文学術誌にて報告している。また、本研究を進める過程で研究課題の配位子構造と同様な窒素原子を有する分子構造において、特定のアルカリ金属原子との特異的な相互作用に基づく分子変換反応の進行を明らかとすることができた。本結果について、その成果を国際学術誌にて報告することができた。
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