2020年度までに確立された赤色光駆動Barton脱炭酸反応の条件をもとにして、基質一般性の検討を行った。反応は幅広い構造を有するカルボン酸に適用可能であり、対応する脱炭酸体をおおむね良好な収率にて得ることができた。これまでBarton脱炭酸反応の適用が難しいとされてきたアミノ酸に対しても、わずかな工夫で最適条件を定めることができた。また、確立した本条件をもとにして種々の試薬を共存させて反応を行うことで、酸素、窒素、硫黄、ハロゲンなどの様々なヘテロ原子を脱炭酸的に導入することにも成功した。条件はいずれも安価な触媒存在下での室温程度での赤色LED照射であり、既存のラジカル反応と比較しても極めて温和でありかつエネルギー消費量も少ない。また、脱炭酸的なGiese反応により、炭素-炭素結合の切断と生成を一挙に行うことにも成功した。得られた誘導体をワンポットで青色光駆動反応に付すことにより、波長選択的な有機化学反応を起こす予備的知見を得ることもできた(本知見をもとにした研究は、2022年度以降も基盤研究Cにて発展的に継続していく。)。さらに、赤色光駆動Barton脱炭酸反応についてラジカル捕捉実験、電気化学測定、消光実験などの様々な反応機構解析を行った。その結果、触媒からのエネルギー移動に駆動されたラジカル連鎖機構で進行していることが示唆され、また並行した計算化学研究によってその妥当性を確かめることができた。
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