研究課題/領域番号 |
19K15572
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
米倉 恭平 関西学院大学, 理工学部, 助教 (90836826)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1電子移動 / トリフルオロメチル化 / 不活性結合活性化 |
研究実績の概要 |
トリフルオロメチル(CF3)基を有する多くの有機化合物は,しばしば医薬品として利用されるなど有用性が高く,数多くの CF3 基含有有機化合物の合成反応が開発されてきた.中でも,CF3 化反応は,当該化合物の合成反応として最も単純かつ直截的である.求核種の CF3 化には,CF3 カチオン(+CF3)等価体を用いるが,既存の +CF3 等価体は高価であるか合成に多段階を要する.そこで本研究では,比較的安価で容易に入手可能なアリールトリフルオロメチルエーテル(ArOCF3)を +CF3 等価体として利用するための活性化手法の確立を目指した.この一年間を通して,ArOCF3 の O-CF3 結合の1電子還元に対する反応性を調べた. アリールマグネシウム反応剤と塩化亜鉛のトランスメタル化により調製したアリール亜鉛反応剤を求核剤に用いても,O-CF3 結合が開裂することはなかった.文献によると PhOCF3 の還元電位は -2.94 V と非常に高いので,アリール亜鉛反応剤からの1電子移動が起こらなかったものと考えられる.Grignard 反応剤とジアリールアミンのトランスメタル化によって調製した種々の金属アミドを求核剤として用いて 185℃に加熱しても O-CF3 結合は開裂しなかった.現状では,ArOCF3 を1電子還元することができておらず,アニオンラジカルとなった ArOCF3 の反応性はまだ判っていない.一方,金属アミドの THF 溶液に ArOCF3 を加えると緑色に呈色することが判った.金属アミドと ArOCF3 の間での電子受容-供与(EDA)錯体が生じているものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時は,2年目でトリフルオロメチル化反応を実現するところまで研究が進むことを想定していた.これに対して現状では,O-CF3 結合を効率よく開裂させる条件を見つけることができていない.活性化のターゲットとしている化合物が予想以上に安定であったことが研究が遅れている原因である.
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今後の研究の推進方策 |
この一年間で挑戦してきたことは,PhOCF3 の1電子還元による O-CF3 結合の活性化である.しかし,研究実績欄で述べたように,加熱するだけでは1電子移動が起こらないことがわかった.しかし,EDA 錯体を形成している可能性が示唆されているので,可視光を照射すればこの1電子移動が起こると期待できる.今後は,金属アミドとトリフルオロメチルアリールエーテルの EDA 錯体に対し可視光を照射することで O-CF3 結合の活性化を試みる.また,確実に還元できる電極還元を利用することで,対応するアニオンラジカルを調製し,その化学的反応性を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の申請時,申請者は別の研究機関に属しており,以前の研究機関で本研究課題を遂行する予定であったが,初年度に研究機関を関西学院大学に移した.現研究機関には,初年度に計上していた,助成金の大半を占める消耗品類が既に備わっていたため,初年度全体の支出が減った.したがって,当該年度に助成金を繰り越したことで予定より助成金額が増えたので,次年度使用額が生じた. 助成金を翌年度分の薬品類,ガラス器具,NMR 用重溶媒,分析用のガスクロマトグラフ関連部品や光反応用の LED ランプに加え,電気化学反応装置関連部品などの消耗品に計上したい.
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