トリフルオロメチル(CF3)基を化合物に導入することで生物活性が向上する例が,数多く知られている.この重要性から,様々な CF3 化反応が開発されてきた.求核種の CF3 化には CF3 カチオン等価体を利用するが,これは高価であるか合成に多段階を要する.本研究では,比較的安価で容易に入手可能なアリールトリフルオロメチルエーテル(ArOCF3)を CF3 カチオン等価体として利用するための活性化手法の確立を目指した.最終年度では,当初の計画とは異なるアプローチで O-CF3 結合を開裂させることができないか調べた. 当初の計画は,ArOCF3 をルイス酸と錯形成させることによって活性化しその求電子性を高めることで,求核剤との反応を誘起するというものであった.様々なルイス酸を用いてアミンの CF3 化を検討したが,O-CF3 結合を切ることはできなかった.2年目には,アリール亜鉛反応剤やマグネシウムアミドのようなより強い求核剤を用いる検討を中心に実施したが,185 ℃ に加熱しても O-CF3 結合は開裂しなかった.検討の中で,マグネシウムアミドの THF 溶液に PhOCF3 を加えると緑色に呈色することが判ったが,これは,電子受容-供与(EDA)錯体の形成によるものであると考えた.最終年度では,ここに光を照射することによる 1 電子還元あるいは PhOCF3 を陰極で直接還元することで,O-CF3 結合を開裂させる反応を検討した.その結合の開裂はほとんど起こらないが,Ph-O 結合が開裂して芳香族求電子剤として機能することが判った.
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