研究課題/領域番号 |
19K15574
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
奥田 靖浩 岡山理科大学, 工学部, 講師 (70803534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多環芳香族アミン / イナミン / パラジウム / ホスホリル基 / 位置選択性の転換 / C-H活性化 / 光学特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、電子求引基であるホスホリル基を置換したイナミンを出発原料として用いた芳香環形成反応により多環芳香族アミンを合成した。本研究期間内において、申請者は塩基の添加プロセス制御によるブロモ(ホスホリル)エチンの位置転換型銅触媒クリック反応を開発しており、この合成方法論に関連して『塩基の添加プロセス制御』により位置選択性を転換する合成戦略についても併せて検討した。 まず、ホスホリルイナミンと2-ブロモビフェニルに塩基としてKOHを加え、パラジウムおよび銅触媒を用いた薗頭-萩原カップリングを行い、続く分子内Friedel-Crafts反応で多環芳香族アミンを合成した(反応A)。この反応で得られた多環芳香族アミンは、反応点のβ位にアミノ基が置換していた。また、出発原料としてハロゲンの置換位置が異なる2-ブロモビフェニル誘導体を原料に利用し、アミノ基の置換位置が異なる多環芳香族アミンを合成して光学特性調査を実施した。その結果、アミノ基の置換位置が異なることによってHOMOの軌道分布が変化しており、モル吸光係数や蛍光量子収率などが変化すると結論付けた。 続いて、ホスホリルイナミンと2-ヨードビフェニルに塩基としてKHCO3を加え、パラジウム触媒を用いた直截環化でも多環芳香族アミンが得られることを見出した(反応B)。この反応で得られた多環芳香族アミンのアミノ基は反応点のα位に置換しており、反応Aの生成物とは置換位置が反転していることを見出した。得られた生成物については、KOMeにより脱ホスホリル化が可能であった。またホスホリル基の硫黄化や脱硫黄化でリン上の官能基が異なる誘導体を合成して光学特性を調査しており、ホスフィンオキサイドやホスフィン(III)では励起状態における構造緩和や熱振動によりストークスシフトが大きくなり、蛍光波長が長波長シフトすると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を実施することにより、ホスホリルイナミンから多環芳香族アミンを合成するという新たな合成反応を開発することができた。当初の申請内容としてはイナミンの付加反応でエナミン誘導体を合成する予定であったが、発光材料や正孔輸送材料として有用な芳香族アミンを得られた点に関しては、当初計画とは異なるものの、更に有益な研究成果が得られたと考えている。また、最近では合成プロセス制御による位置選択性の転換という新たな研究基盤も確立しており、多環芳香族アミンの「精密合成」だけでなく『自在合成』という新たな水準にも達しつつある。しかし、パラジウム触媒を用いたイナミンの直截環化に関しては、2021年度に新型コロナウイルス流行に伴う実験の一時中断といった影響を受けており、未だに論文出版に必要な実験データが不足しているため論文投稿を完了出来ていない。これらの点を踏まえて、研究自体は充実した成果を挙げつつあるものの、研究速度という点においては”やや遅れている”と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はパラジウム触媒を用いたイナミンの直截環化に関して、論文投稿に必要な化合物の合成、分光データの収集および光学特性の調査といった実験データの蓄積に努める。これと並行して論文自体の執筆作業も進めており、本年度中に全ての研究に関する研究成果の公表まで完了したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室内において新型コロナウイルス感染があったため2週間の研究室閉鎖や、感染対策を講じた上での学生との実験実施が当初の研究計画より進展が遅かったことを考慮し、研究期間を1年間延長したため。本申請研究で得られた成果に関して論文発表を予定しているため、実験データの収集実験に必要な試薬などの物品費、あるいはディスカッションに必要な旅費に予算支出する予定である。
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