研究課題/領域番号 |
19K15578
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 貴志 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90734103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超分子 / 錯体 / 配位結合 / 活性腫 / 反応場 / 分子捕捉 / パラジウム / ビピリジル |
研究実績の概要 |
剛直な大環状骨格をもつ多核金属錯体は、複数の金属原子の配位サイトを集積することができるため、単核錯体では見られない特異な配位様式や機能が期待される。本研究では、金属の配位サイトに囲まれた反応場を提供する新規な超分子錯体の合成とその機能開拓を目的とした。2019年度には、辺にN2配位部位である2,2´-ビピリジル(bpy)を導入し、頂点部位にN2O2配位部位であるサレン(salen)を有する三角形大環状配位子bpytrisalenを用いたNi多核錯体およびPd多核錯体の合成検討を行なった。その結果、Niとの錯形成により、Niが選択的にsalenに結合した3核錯体の合成・単離に成功した。錯体のX線結晶構造解析の結果、Niとの錯形成によりサレン部位の平面性が増した剛直な三角形構造をもち、そのbpy部位は金属配位に適した配座で内孔に配置されることが明らかとなった。また、Ni錯体の結晶中において、水分子が興味深い形でディスクリートなクラスターを形成していることも見出された。さらに、Pdとの錯形成により、salen部位とbpy部位の両方にPdが結合した6核錯体の生成が、核磁気共鳴分光法、質量分析、および予備的なX線結晶構造解析の結果より明らかとなった。核磁気共鳴分光法では、もともと等価だった各水素がそれぞれ3つもしくは6つの別々のシグナルとして観測され、対称性の低い単一の錯体の生成が示唆された。また、予備的なX線結晶構造解析の結果、Pd6核錯体のbpy部位には平面4配位のPdが配位しており、Pd上のbpyで塞がれていない配位子交換可能なサイトが内孔に集積された構造をもつことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、従来のクラスター錯体のように「金属を集積」するのではなく、「金属の配位サイトを集積」するアプローチをとり、多数の金属を分子捕捉点かつ反応活性点として同時に活用する反応場の創出を目指すものである。2019年度に合成・単離に成功した三角形大環状配位子bpytrisalenのNi3核錯体は、その内孔にbpy部位を金属配位に適した配座で複数配置した構造をとり、金属の配位サイトを集積した様々な反応場を合成するための有用な分子となる。また、bpytrisalenのPd6核錯体は、その内孔にPdの配位サイトを集積した構造を有しており、当初計画していた金属配位サイトを集積した多核錯体の合成が実現した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度で得られたbpytrisalenのPd6核錯体は、Pdの配位サイトを内孔に集積した構造を有している。この特性を活かし、金属からの多点配位により基質を捕捉することでその相対配置を厳密に規定し、通常制御が難しく混合物を与えるような反応を位置選択的に進行させる触媒としての機能開拓を目指す。また、2019年度に得られた予備的なX線結晶構造解析の結果判明したbpytrisalenのPd6核錯体のbpy部位の金属間距離は、bpytrisalen大環状骨格が平面であることを考慮すると、平面4配位のPdが何らかの配位子Xを伴いPdX2として固定されるには小さすぎる。すなわち、構造のフラストレーションを持ちつつPdの配位サイトが環の内孔を向いて集積されている可能性があり、そのユニークな構造の起源の解明を目指す。 さらに多段階酸化還元能を利用した高効率酸化反応の開発を目指し、bpytrisalen大環状配位子に対してFeなどの遷移金属を配位させた多核錯体の合成を行い、質量分析やX線結晶構造解析などの手法によってその構造を解明する。さらに、酸化還元触媒反応に向けた物性測定と機能探索を行う。
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