剛直な大環状骨格をもつ多核金属錯体は、複数の金属原子の配位サイトを集積することができるため、単核錯体では見られない特異な配位様式や機能が期待される。本研究では、金属の配位サイトに囲まれた反応場を提供する新規な超分子錯体の合成とその機能開拓を目的とした。2020年度には、昨年度に合成された、辺にN2配位部位であるビピリジル(bpy)を導入して頂点部位にN2O2配位部位であるサレン(salen)を導入した三角形大環状配位子bpytrisalenを用いたPd6核錯体について、さらなる合成条件と構造の詳細に関する検討を行った。その結果、亜硝酸イオンを含む酢酸パラジウムを原料として多核錯体を合成すると、内孔の3つのbpyに配位した3つのPdに4つの亜硝酸イオンと1つの酢酸イオンが配位した特異な構造をもつ錯体が得られることが、単結晶X線解析測定、NMR、質量分析などの結果から推定された。また本年度はさらに、金属の配位サイトに囲まれた新規な超分子錯体の合成を目的として、キレート配位部位papを6つもつ大環状配位子hexapapと銀イオンとの錯体形成の検討を行った。その結果、6つの銀イオンがhexapap配位子2分子によってサンドイッチされた構造の、巨大な内孔をもつ銀6核大環状錯体が形成することが明らかとなった。種々の分析手法により、papは銀に対してN-Nの二座キレート配位部位として結合し、銀イオンは大環状錯体の内孔壁面に配列していることが示された。今後、大環状錯体内孔での銀との多点配位結合を活かした分子認識や触媒反応の研究への展開が期待される。
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