研究課題/領域番号 |
19K15579
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
松岡 亮太 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (80806521)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カテナン / 水素結合 / ピリジルピラゾール金属錯体 |
研究実績の概要 |
空間的にインターロックされた構造(空間的結合)をもつ分子は,ユニットの可動性により破断耐性と構造柔軟性を併せ持つ伸縮性材料として注目を集めている。本研究はビシクロ型の金属錯体を空間的結合により連結し,異方的な伸縮応答を示す三重らせん型ポリ[n]カテナンを創製することを目的としている。三重にインターロックされたビシクロ型らせんケージがポリマーの折れ曲がりを抑制すると同時に,錯体部位の外部刺激応答によってポリマーを異方的に伸縮させることを期待している。 今年度は,三重らせん型[2]カテナン構造を形成しうるピリジルピラゾール配位子1をモデル分子として設計し,その合成を行った。種々の検討の結果,ピラゾール部位とピリジン部位とのカップリング反応を経由することによって,配位子1の合成に成功した。 配位子1は亜鉛(II)イオンと定量的に錯形成し,三重らせん錯体となることが1H NMR滴定実験により明らかとなった。興味深いことに,この錯体は固体中で部分的に脱プロトン化を起こし,分子間水素結合を介した二量体構造を形成することが単結晶X線構造解析により明らかとなった。さらに,この二量体構造は溶液中においても安定に存在し,特定の条件下ではほとんど単量体に解離しないことが各種NMR測定およびMS測定からわかった。 以上の結果は,本研究で設計・合成したピリジルピラゾール錯体が,分子間水素結合を利用したインターロック構造の構築に非常に有用であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はモデル化合物となるピリジルピラゾール配位子1の合成を中心に研究を行った。ピラゾールのNHプロトンを残したピリジルピラゾール配位子の合成例はほとんどなく,本研究目標達成のためにはこの配位子1の合成が非常に重要な課題となる。今回,独自に考案した3種類の合成ルートを検討した。最終的には,非対称ピラゾールとピリジン誘導体のカップリング反応を経由するルートによって配位子1を合成することができた。 合成した配位子1の亜鉛錯体は非常に興味深い会合挙動を示した。単結晶X線構造解析の結果,錯体は結晶化の過程で部分的に脱プロトン化し,分子間水素結合を介した二量体構造を形成することが明らかとなった。水素結合しているピラゾール同士のN...N間距離は0.264 nmと非常に短く,強固な水素結合の形成を示唆している。この事実は溶液中の挙動にも表れており,結晶を溶かした溶液のNMRを測定した結果,錯体が溶液中においても二量体構造を維持していることがわかった。この二量体構造はインターロック構造を形成するうえで非常に重要な役割を果たすと考えられ,計画通りに研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はモデル錯体を用いた[2]カテナンの合成および,モデル錯体の誘導体を用いたポリ[n]カテナンの合成を目指す。ポリ[n]カテナンの構成ユニットは今年度合成したモデル配位子1の合成中間体であるため,すでに合成できることを確認済みである。ポリ[n]カテナンの合成には,構成ユニットの重合条件の最適化が非常に重要な課題となる。そのため,溶媒・温度・濃度・リンカーの種類など適切な重合条件の探索に注力する。カテナン構造が合成できたら,アニオンや酸の添加によって構造変化を促し,カテナンの刺激応答伸縮の実現を目指す。
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