研究課題/領域番号 |
19K15580
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山神 光平 沖縄科学技術大学院大学, 量子物質科学ユニット, 研究員 (50823829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体 / X線吸収分光 / 電子状態 / スピンクロスオーバー |
研究実績の概要 |
遷移金属錯体において発現する物性は遷移金属イオンの電子状態と極めて密接な関連を持ち、その特徴を引き出すことはデバイスへの応用に際して極めて重要である。例えば架橋配位子を用いたスピンクロスオーバー錯体は遷移金属サイトの結晶場効果の変化によってスピン転移の様子が変化することが示唆されており、このような電子状態が生み出す特異な電子物性が注目を浴び、長年に渡って研究がなされている。従来、X線回折などから得られる分子/結晶構造の変化から遷移金属イオンの結晶場効果が議論されているが、元素特異的な実験手法によるエネルギースケールから電子状態と物性の関連を調べる動きが活発化している。 研究代表者は、可視光を組み合わせた軟X線吸収分光を駆使して機能性材料として応用が期待されているスピンクロスオーバー錯体の電子状態研究を通じて、遷移金属錯体の物性と電子状態の関連を解明し、錯体の電子構造設計に戦略的指針を与えることを目的とする。 本年度はコロナの影響によってX線吸収分光を行うために必要な放射光施設の利用が制限されたため、X線吸収分光と相補的に扱われるX線光電子分光による内殻光電子スペクトル対する温度変化によって、スピンクロスオーバーと関連する遷移金属イオンの電子状態変化を追跡できるかを検討した。その結果、実験室光源レベルのX線のエネルギー分解能、光子密度、照射時間依存性においては遷移金属錯体の劣化は無視できるほど小さいことを確認した。そして、内殻光電子スペクトルの温度変化測定を行った結果、スピンクロスオーバー現象と関連するスペクトル形状の変化および束縛エネルギー位置の可逆的な変化の観測に成功した。次年度は特に配位高分子型に注目して、光電子スペクトルの温度依存性を詳細に調べていく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はコロナの影響により、放射光施設の利用閉鎖や所属機関の屋外出張に関する制限により、計画していた放射光を用いた吸収分光の温度変化測定を行うことが不可能となり、他の実験手法を用いた温度依存測定を検討する必要性があったため、進捗がやや遅れている状況である。研究代表者はX線吸収分光に変わる実験手法として実験室光源を用いたX線光電子分光に本年度は着手した。Al Kα線(1486.6 eV)を用いて、X線吸収分光の2p→3d吸収スペクトルと相補的に扱われる3d遷移金属イオンの2p内殻光電子スペクトルを観測することで、遷移金属イオンの局所電子状態の観測を試みた。放射光と異なり、エネルギー分解能が2倍程度悪いため、温度変化に対するスペクトル形状の変化を追随できるか不安要素があったが、配位高分子型のスピンクロスオーバー錯体に対して測定を行った結果、スペクトル形状の変化およびそのエネルギー位置の変化を追跡することができることを確認した。また、その振る舞いは昇温と降温で錯体の色の変化とは異なる温度依存性を示しており、遷移金属イオンの局所電子状態を抽出できた可能性が示唆された。2021年度ではより詳細な温度変化測定を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後、温度変化測定によるスピンクロスオーバー錯体の結晶場効果の変化を反映した光電子スペクトルの温度依存性を調べていく。獲得したスペクトルを理論計算と今後比較することを予想して、放射光を用いた吸収分光測定が行えるかどうかを並行して検討していく。また、遷移金属錯体中の水分子の脱水を抑える方法として、グラフェンを用いた被膜測定を今後、遂行していく。
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