遷移金属錯体において発現する物性は遷移金属イオンの電子状態と極めて密接な関連を持ち、その特徴を引き出すことはデバイスへの応用に際して極めて重要で ある。架橋配位子を用いたスピンクロスオーバー錯体は遷移金属サイトの結晶場効果の変化によってスピン転移の様子が変化することが示唆されており、このよ うな電子状態が生み出す特異な電子物性が注目を浴びている。従来、X線回折などから得られる分子/結晶構造の変化から遷移金属イオンの結晶場効果が議論され ているが、元素特異的な実験手法によるエネルギースケールから電子状態と物性の関連を調べる動きが活発化している。 代表者は、軟X線吸収分光を駆使して機能性材料として応用が期待されているスピンクロスオーバー錯体の電子状態研究を通じて、遷移金属錯体の物性と電子状態の関連を解明することを目的とする。 本年度は軟X線吸収スペクトルの温度依存性を詳細に調べた。結果、スピンクロスオーバー転移による試料の色の変化を観測し、遷移金属2p→3d吸収に相当する軟X線吸収スペクトルにおいて温度依存性を初めて捉えることに成功した。スペクトル解析を行った結果、マクロ測定から得られている転移温度よりも高温側でスピンクロスオーバー転移することを見出した。この結果は分子型のスピンクロスオーバー錯体で報告されている転移温度の低温シフトとは真逆の挙動をしており、配位高分子特有の周期的な結晶構造中で起こる協同効果、つまり、電子-格子相互作用がスピンクロスオーバーに関係していることを示唆している。
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